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精霊の紋章  作者: はぐれメタボ
13/21

革命の火種

「入れ」


 横柄な態度の兵士に促された俺達はヤナバル王国の王都へと足を踏み入れた。


 ヤナバル王国の王都は ミルミット王国の王都やグリント帝国の帝都とは明らかに雰囲気が違う。


 とても一国の王都とは思えない程、活気と言うものを感じることが出来ない。


 道を行く人々は皆、他人と目を合わせない様に、人の目に留まらない様に足早に去って行く。


「なぁ、なんかさぁ……」

「ええ……」

「なんつーか、空気が重いって感じか?」


 俺達が顔を見合わせていると1つ隣の通りからざわざわとした声が聞こえてくる。

 建物の陰から様子を伺うと揉め事の様だ。


「おら、さっさと歩け!」

「きゃっ!」

「おいおい、手荒な真似はするなよ。

 その女にはベッドで愉しませて貰うんだからな」

「「「がっはははは」」」

「お、お待ちください!どうか、どうか妻だけは……」


 俺達は目の前の光景に唖然となる。

 ここは辺鄙で人気のない街道ではない。

 一国の王都、国王のお膝元の通りのど真ん中だ。


「なんで街中に盗賊がいるのよ」

「こんなの直ぐに衛兵に捕まるだろ?」


 マーリンとカートの意見はもっともだ。

 白昼堂々と人攫いなどまかり通る筈がない。


「ほぉ、ロミオ。

 よくこの俺にそんな口を聞けるものだな。

 別に俺は無理やり連れ出している訳じゃない。

 お前の女がお前じゃ満足出来ないって言うから、親切な俺が相手をしてやってるんだ。

 そうだろ、ジュリエット?」

「……………………はい」

「俺とこの男、どっちが良いんだ?」

「…………エスカラス様です」


 帯剣した男達に腕を掴まれた女性が絞り出す様に答え、周りの男達から笑い声があがる。

 なんだ、あの茶番は?


「おい!何をしている」


 その騒ぎの外側から新たな武装した集団が現れた。

 ようやく誰かが衛兵を呼んで来たのだろう。

 そう思ったのだが……。


「なんだ、エスカラス。面白そうな事をしているじゃないか」

「マクベス様。いえ、この下民共に王国臣民たる者の態度を教育してやろうとしていた所です」

「ほぉ、なかなか良い女だな。

 よし、今晩俺の相手をさせてやろう。光栄に思え」


 衛兵ではなくあの盗賊もどきの仲間だった。

 エスカラスと呼ばれた男は妻を庇おうとする夫を引き倒し頭を踏み付け言う。


「聞いたなロミオ、聞いたなら夫としてやるべき事があるだろ?」

「…………っ!」

「ん?分からないなら教えてやろう。

『マクベス様、どうか私の妻をよろしくお願いします』っだ。言ってみろ」

「……………………」

「なんだその目は?」

「ロミオ……私は大丈夫だから…………」

「………………マクベス様……どうか……私の妻を……よろしくお願いします」


 男の絞り出すかの様な言葉に周りの男達が再び笑う。


「はっはっは、さて、帰るぞ、お前ら」

「ヘッヘッヘ、マクベス様。

 たまには俺達も愉しませて下さいよ。

 おぅ、お前で良い、オラ、来いよ」


 マクベスと一緒に現れた帯剣した男の1人が近くに居た娘に手を伸ばす。


「ぐぁぁあ!」


 しかし、その手が娘に触れる事はなかった。

 それよりも速く、マクベスと呼ばれた男のレイピアが帯剣した男の肩を貫いていた。


「貴様、俺は『帰るぞ』と言ったんだぞ?」

「も、ももも申し訳ありません、おお許し下さい」

「フン、まあいい、行くぞ」


 男達はジュリエットと呼ばれた女性をつれ立ち去って行く。

 

「何なのよ、アレ!」

「衛兵は何やってんだ!」

「仕方ない、捕まえて衛兵に突き出そう」


 俺達が物陰から出て行こうとすると、近くに居た者達が慌てて俺達の前を塞ぐ。


 奴らの仲間かと思ったがその格好をみるとどう見てもただの一般市民だ。


「ちょっと、どいてよ!彼女、連れて行かれるじゃない!」

「お前達、今日この街に着いた冒険者か?

 頼む、何も騒ぎを起こさないでくれ」

「どう言うことだ!早く、衛兵を呼ばないと!」


 俺の言葉に市民の男は驚愕の答えを口にする。


「無駄だ、あの剣を持った男達がこの王都の衛兵なんだ」

「はぁぁあ⁉︎」

「あんなのが衛兵⁉︎腐敗なんてもんじゃねぇぞ!」

「この国の王族や貴族は何をしているんだ!」

「王族ならほら、あのジュリエットを連れてった奴、あいつがこの国の第3王子、マクベス・フォン・ヤナバルだ」




 王都に入った初日、とんでもない光景を目撃したあの日から数日後、俺は人気のない街を進んでいた。


 やがて、元々乏しかった人の姿がさらに減りとうとう誰の姿も見る事が出来なくなる。


 隣を歩くマーリンの顔はフードで隠されていて窺う事は出来ないが、それはお互い様なので仕方ない。


 そして、目的地である寂れた酒場に到着した。


 酒場に入るとカウンターで不機嫌そうなマスターがこちらに視線を向けて来た。

 客席には3人の男が詰まらなそうにグラスを煽っている。


「マスター、『この店で1番強い酒をくれ。

 それと腸詰め肉をボイルとソテーで1つずつ、マスタードは別皿で頼む。

 今日は暑いからな。少し冷まして持って来てくれ』」

「………………奥から2番目の扉だ」


 俺の言葉を聞いたマスターは鍵を1つ取り出し差し出した来た。


 酒と料理ではなく鍵を出したと言う事は、あの3人は問題無いのだろう。

 少し窺うと3人は武器から手を離した。


 俺達は店の奥に入るとマスターの言う通り、鍵を使って2番目の扉を開く。

 その部屋には椅子に座った男が1人と鉄製の扉があるだけだった。


 男は立ち上がり、腰の剣に手をかける。

 しかし、俺は男を無視して鉄製の扉をノックした。


 コン コンココンコン


「『その手に掲げる物は?』」

「『自由の剣』」


 俺の返答を聞くと鉄製の扉が開く。

 同時に部屋に居た男が剣から手を離し椅子に座りなおした。


「入れ」


 内側から扉を開けた男が俺達を招き入れる。

 扉を先には地下に続く階段があり、俺達もその階段を降りて行く。


 そして、先には降りた男が階段の先に有った扉に合言葉を伝えて中から開けてもらう。


 この最後の扉は彼のみが開けられる事になっている。

 開いた扉から部屋に入った俺を仲間が迎えてくれた。


「遅かったな、エリオ、マーリン」

「悪いなカート」

「少し手間取ったのよ」


 先には到着していたカートに合流した俺達に、もう1人の人物が話しかけて来る。


「2人ともご苦労様、問題は無かったかい?」

「ああ、ロミオ。隣の村への連絡は問題無い」

「帰りに野盗に襲われたけど始末しておいたわ」


 彼は王都に入って来た時に王族に攫われた女性ジュリエットの旦那だ。

 彼女もすでに帰って来ている。

 あのマクベスと言う王子は女性を強引に連れ帰り、飽きたら放り出すと言う事を繰り返しているらしい。

 それでも殺されないだけ他の王子や国王よりましだと言う。


 ロミオとジュリエットはこのヤナバル王国の現政権を打倒する為に結成されたレジスタンスの幹部だ。


 そして俺達は来たる革命に向けて、レジスタンスに雇われる事になった。

 コレは大きな賭けだ。


 もし反乱が失敗すれば、俺達は国家反逆の咎で死罪となる。

 しかし今の国王から国宝である精霊の力を宿したアイテムを譲ってもらう事は不可能だ。


 集めた情報からそう判断した俺達はレジスタンスに協力してこの国をひっくり返す事に決めたのだ。


 そして、革命が成功した時には俺達の望むアイテムを1つ受け取る事になっている。


「皆んな、来てくれ」


 ロミオに呼ばれた俺達は奥の部屋に入る。

 この地下室はレジスタンスが何年も掛けて作り上げたアジトの1つだそうだ。


 部屋の中には3人の人間が居た。


「オセロ、彼らがDランクパーティ《精霊の紋章》だ。

 エリオ、彼はオセロ、レジスタンスの幹部の1人で武器や情報の収集を担当している」


 ロミオに紹介されたのは行商人風の男性だ。

 オセロは俺と握手しながら後ろの2人に自己紹介を促す。


 2人はこの街まで、オセロを護衛して来た冒険者らしい。

 

「俺はハムレット、この国出身の冒険者だ。

 他国で活動していたがレジスタンスの噂を聞いて戻ってきた。よろしく頼む」

「わたしはソフィアです。

 イザール神聖国出身の冒険者で、旅の途中この国の腐敗を知り、苦しむ民を救う一助になればとレジスタンスに参加しました」


 ハムレットは左右の腰にレイピアを吊るした男、ソフィアは要所を鋼で補強した革鎧を着て、ショートソードと大楯を装備している。


「この3人はこれから俺達、本隊と行動を共にする。よろしく頼む」

「最近、他の街や村からの合流が多いな」

「ああ、近い内に最後の戦いが始まる。

  そのつもりで準備を頼む」


 決戦の時は近いと言う事か。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アルファポリスのを読んだことがあるのですが、確かそっちだとアーサーがエリオだったと思うのですが途中からアーサーの表記がエリオに変わっていました。細かいかも知れませんが少し気になったので…
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