治安の悪い国
マーリンが魔法で創り出した水を桶に入れ、飼葉と共にシオンに与える。
飼葉を運んだ俺に唾を飛ばし、水を出したマーリンには額をすり寄せる。
安定のエロ馬である。
ミルミット王国の王都を出発して2ヶ月、俺達《精霊の紋章》はいくつかの依頼をこなしグリント帝国の端まで馬車を進めていた。
グリント帝国とヤナバル王国の国境の砦に到着した俺達にグリント帝国の紋章が入った鎧を着た兵士が近づいてくる。
「お前達、冒険者か?」
「はい」
兵士にギルドカードを預け、審査の間、1時間ほど時間を潰していると兵士に呼ばれた。
審査は無事終わった様で、兵士からギルドカードを返して貰う。
すると兵士は言葉を選ぶ様に忠告をしてくれた。
「この先はヤナバル王国だ。
ヤナバル王国は現在その……なんだ……あまり治安が良くない。気をつけろよ」
「ありがとうございます」
そして、グリント帝国領からヤナバル王国の領土に入る。
「止まれ」
そしてヤナバル王国の兵士に止められる。
これからもう1度、チェックを受けるのだ。
一緒にしろよと思わなくはないが、仕方のない事だ。
「ギルドカードを見せろ」
横柄な態度の兵士にギルドカードを手渡す。
「ふん、Dランク冒険者か。違法な荷は無いだろうな」
「はい、荷は水と食料、野営具、魔物の素材などです」
「確認させて貰う」
数人の兵士がズカズカと馬車に上がり込み、ガサガサと漁り出した。何だこいつらは?
本当に国の兵士なのか?
山賊や盗賊の類では無いかと心配になる。
そうこうして時間が過ぎ、兵士が戻って来た。
「ちっ、通っていいぞ」
「はぁ、ありがとうございます」
俺達はどうにかヤナバル王国へと入国する事が出来た。
しかし、事件は入国して半日程してから発覚する。
「あ!」
俺が手綱を握り、不満そうなシオンに指示を出していた時に、マーリンが声を上げた。
「どうした、マーリン」
だらっとしていたカートがマーリンに尋ねる。
「魔石の数が足りないのよ。素材も少し減ってるし」
「こりゃあ、ヤられたか?」
「多分、国境の兵士だろうな」
「どうする? 戻る?」
「戻ってもしょうがないさ。
どうせ証拠がないとか言ってしらばっくれるに決まってるだろ。
下手をしたらこっちが犯罪者にされちまう」
「はぁ、まったく、世界最強になる予定のこの俺から荷を盗むとはな……仕方ない。
大した額では無いし、今回は勉強代だと思って諦めるか」
「そうね。
国王様から貰った路銀をマジックバッグに入れておいて良かったわ」
ようやく目的の国に到着した俺達だが、いきなり出鼻を挫かれるのだった。




