夏のばかたち
猛暑炎天下を想像して勢いで書きました。どうでもいいギャグです。こんなの書いてごめんなさい。
ビールが美味しい季節になりましたね。
陽射しが肌をジリジリと焼く。
何度も重ねた日焼け止めも、滴る汗にもう流された。時折汗が目に入りそうで、ハンカチで何度も抑える。
ビールが飲みたい。
グラスを水に潜らせ、薄く氷が張るまで冷凍庫へ。同じタイミングで冷蔵庫で冷やしていたビールを飲む寸前まで冷凍庫でさらに冷やす。
居酒屋の生ビールも良いが、缶のプルタブが奏でるあの音は至高だ。
キンキンに冷えたグラスに、キンキンに冷えた黄金色の液体が注がれる。一口飲めば、喉を刺激する炭酸、そしてアルコールの酩酊感。
つまみは何がいいだろう、枝豆か餃子か。どちらもいい。両方買って帰ろう。
私、野瀬夏菜子に彼氏がいたのは3年前だ。
喧嘩別れした彼氏。いいやつだったけど、あいつと別れてから、1人の素晴らしさに気がついた。
あまーいカクテルなんかより、ビールがいい。アフターファイブの逢瀬を楽しむより、ビールとつまみをスーパーで買って、ビニール袋をかっ下げて浮かれて帰る駅から家までの時間が楽しい。
守ってあげたい妹系が好きだったやつとは合わなかったのだ。抜き打ちで家庭訪問しやがった時、片手にビール、短パンTシャツでドアを開けた私に耐えられなかったのだろう。
今日も定時で帰れるように。
少し草臥れたパンプスをぱかぱかと間抜けな音を鳴らしながら歩く。
「スミマセン!」
ビールの幻想から現実へ、周りを横目で確認した。
確実に自分に話しかけている。そう確認してからゆっくりと振り返る。
あいらぶじゃぱん!と達筆なロゴが目に入った。
観光客か、そーりーわたしえいごしゃべれませんー。なんて口を開こうとしたとき、視界いっぱいにちかちかしたものが目に入った。
キラキラ輝く明るい髪。ラピズラリのような瞳。
「ダイジョブデスカ!?ジャパニーズネッチューショーデスカ!?オネーサン!!」
相手は超絶美形外国人だったのだ。
「…おーけーおーけー。ノープロブレム。」
近い。近すぎる。
至近距離で騒ぐ異国人にジェスチャーで意思疎通を計ろうとするが、通じない。
「タイヘンデス!デモダイジョブ!オネーサン、ワタシニマカセテ!」
「大丈夫だから、離れっ!?」
唇に生温い感触。
汗の匂いに混じって爽やかなムスクがふわりと薫った。
「モウ、ダイジョブデスカ?」
瞼に隠れていたラピズラリが現れる。
至近距離のまま心配そうに聞かれる。
私の桃色が移ったその唇が妙に艶めかしく見えて、思わず齧り付いた。
「…オー、ジャパニーズガール、セッキョクテキネ。」
戯けたような声に混じった微かな劣情。
それに反応するように背筋がピクリと震える。
暑さでばかになっているのだ。いくら人通りが少ないからって。こんな道端で口付けるなんて。
通りがかった通行人Aが見て見ぬ振りをしたが、どうでもよかった。
どうしてもこの美しい異国人が欲しいと思ってしまったのだ。
それも全部暑さのせい。
「ねえ、どうしてキスしたの?」
「ヤマグチサンニキキマシタ!キスガネッチューショーニハイイって!ネッ!チュウシヨウ!だから!」
おい、ヤマグチ絶対酔っ払ってただろ?
ビールが飲みたいです。
くだらないお話を読んで頂き、ありがとうございました。