表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12月の天国   作者: 千のエーテル
6/20

Dive06

「今私が感じているこの気持ちを解放するなにかいい方法ってないかな?」


「どう感じてるの?」


「世界中に溢れる嘘。その嘘を嘘だと知っていながら、ここにいるみんなと一緒に、私は成長していきたくない」


「全ての嘘が悪ではないって考えはなし? 人を幸福にする嘘もある」


「レンガ。それは偽善。人を幸福にする嘘は嘘じゃない。それはただの思いやりの一つの形であって私が話してるのはもっと大きな話し」


「だったらケシキが嘘のない世界に変える」


「世界を変えるのは限りなく時間がかかりそう……それに挑み、幾度となく踏み潰されてきた先人達の死体の上でこの世界は廻っている」


「アメリカの大統領になれば変えられるんじゃないかな?」


「今のアメリカの大統領には残念ながらそこまでの力はないわ。それにアメリカが侵略されて植民地化でもされない限り、外国人がアメリカで大統領になることは不可能なの知らないのレンガ?」


それでもケシキなら、すぐにアメリカの憲法の穴を見つけだし、なんだかんだで大統領になりそうな気がした。そして誰も思いつかなかった発想で世界を変えていく。ケシキならそれも可能に思えた。


「レンガ。日本が発表した去年の国内での自殺者数知ってる?」


「どれぐらいだろ……5万人は超えてるんじゃないかな?」


「3万人強」


「それは嘘だ。そんなに少ないわけない」


「WHOの発表だと日本の変死者の数は15万人。この数字の半分以上は自殺者でまず間違いないと思う」


「なぜそんな矛盾が起きるんだろう?」


「日本で遺書のない自殺は仮に自殺だったとしても、自殺者としてはカウントされない。先進主要国で自殺者数トップを独走するわけにはいかないという、政治家達お得意のやり方。つまりこれも嘘。大嘘」


「実に日本らしい考え方だと思う。本当に嫌になる」


「もし日本の自殺者数が年間15万人だとしたら、毎日410人の人間がこの世界から離脱しているということになる」


「そう考えると今この瞬間にも誰かがこの世界からいなくなってる」


「そう。今この瞬間にも誰かが様々なやり方で自殺してる。羊とヤギが大量に崖から湖水に飛び込んで自らの命を絶ったのと同様に、その理由は彼らにしかわからない」


日本政府がその事実を隠したくなるほどに増え続ける自殺者。こんな世界ならそれはきっと普通のことだ。悲しいことだけど普通のこと。政府がいくらその事実をねじ曲げ、数字の目を減らしたサイコロを振り続けても、1から6までしかないサイコロの目は、何度投げても1から6までの数字しか現実には存在しない。


「もしこの先ずっと自殺者が増え続けたら100年後には人口が激減してたりして」


「どんなに馬鹿な日本政府でもそれまでには自殺者に対するセーフティネットが構築されてるわよ。まあ50年後にもまだ日本という国が存在しているのが前提の話ではあるけど」


「聞いてもいいかな?」


「なによ」


「ケシキはさどうしてそこまでこの世界を嫌うの?」


「この世界の死者を記録していくカウンターはかなり昔に壊れたんだよ……きっと。そうしてその壊れたカウンターのことを知りながら、自分はそのカウンターとは関係ないと思っている人間達だけが自由に作る世界。それは地獄のような世界だと思わない?」


死者を記録する壊れたカウンター。その独特すぎる表現がよくわからなかった。


「それはカウンターに記録されない人達が見て見ぬ振りをしてるってこと?」


「増え続ける自殺者。子供を殺す親。親を殺す子供。金銭が絡んだ殺人。恨みや嫉妬による殺人。国民を餓死させながら高級フレンチを食べる大統領。 一定数の人間が死ぬまで終わらない戦争。ゴールのないテロによって殺されていく被害者。多くの人々が死んでいくなか、その中に含まれない多くの人々は自分には関係ないことのように日々を生きながら、画面の奥から伝えられる事実を瞬間的に画面の奥のことだけで簡単に終わらせられる。だけど私は違う。そんなふうにたくさんの人達が死んで行く世界で、私は外に出た時に空を見ながら、平和ボケした笑顔で今日は天気がいいね、なんて絶対に言わない」


それはまさにケシキを構成する要素の一部を垣間見た瞬間だった。ケシキが言ったことは正しいか正しくないかで言うときっと正しいのだと思う。でもそれはあまりに優しすぎて救いようのないくらい極端な考えだ。人類の大多数は意識的に無関心でいることで生きていける。そうして地球は今日も廻る。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ