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番外編 皇女と学友

 5人の娘たちがそれぞれの屋敷に帰って行ったあとで、妹が東宮殿の兄のもとを訪れた。

「それで、私の学友方はいかがでしたか、お兄さま」

 向かい合う位置に腰を下ろすなり尋ねてきた。兄が少し眉をしかめたのは、それが4日前に兄から妹へしたのと同じ質問だったからだ。その時の妹からの答えは、「ご自身の目で確かめてくださいませ」だった。

「話に聞いていたのと随分違うではないか。どれほどギスギスドロドロしているかと思えば、まさかあのように和やかとは」

 皇女の学友には高位貴族の娘が集められる。そのため、宮中における父親たちの対立関係も持ち込まれて、ぶつかり合いや足の引っ張り合いの場になるのが通例だ。今回のように皇太子妃選びを兼ねれば、それはさらに激しくなるはずだった。

 皇太子としてみれば、そんな中から自分の妃を選びたくない。しかし選ぶのは自身ではなく母と祖母。彼女たちは過去2回のお妃選びの勝者だから、この慣習に対して疑問はないのかもしれないが。そんなことを考えながら戦々恐々と妃候補たちとの初対面に臨んだので、拍子抜けしていた。

 皇太子に同意して、後方に控える真雪が頷いた。

「しかも、あのふたりの娘が揃ってしまったというのに」

 互いに嫌悪を隠そうともせず、宮中で勢力争いをしている左右両大臣にはそれぞれ妃候補に相応しい年頃の娘がいて、どちらも学友に選ばざるを得なかった。

「まさにそのふたり、琴子と苑子が始めからすっかり仲良くなってしまいましたからね」

 妹が可笑しそうに言った。 兄もつられて笑みを浮かべた。

「まあ、あの雰囲気のままであってくれればわたしは顔を出しやすい」

「おそらく大丈夫ですわ。琴子は子守唄みたいな講義も楽しそうに聴いているの。あとでわからなかったところを尋ねればわかりやすく教えてくれるし。それを見て苑子も負けじと学んでいる。あのふたりは潰し合うより高め合う間柄になると思います」


 戸の傍に立つ朔夜が、脳裏に思い浮かべてしまったひとりの娘の姿をどうにか追い出そうとしていることに、この時はまだ誰も気づいていなかった。


  ◆◆◆◆◆


 兄妹が望んだ以上に、皇女の学友たちは親しい関係を築いた。

 皇女の輿入れを控え、最後の講義の日。6人でお茶を飲みながら、どこかしんみりとした空気になってしまった。文などは泣きそうな顔をしている。皇女は明るく言った。

「今までのようには会えなくなりますが、これが最後ではなくてよ」

「そうですわよね。むしろ、これからが長いお付き合いですわ」

 すぐに同調してくれるのはやはり苑子だ。琴子は微笑んだ。

「また皆さまと一緒にこうしてお茶をしたり、ほかにも色々できますわね」

「それぞれ夫を持って、子供ができて、その自慢話をしたりするのかしら」

 唯子も楽しそうに口にした。文の顔にも笑顔が戻った。楓が何か考えている風なのは、彼女だけは将来都を離れる可能性があるからだろう。

「どなたが私のお義姉さまになるのかわかりませんが、それが誰であれ私たちの仲はこれからも変わらないでしょう。次に皆に会うときには私も皇女ではなく貴族の妻です。どうか今後は私のことも名前で呼んでくださいね」

 そう言いながら皇女はひとりひとりの顔を見つめた。降嫁する皇女が友人を得る場という「皇女さまのご学友」本来の目的は、この度は完璧に果たされたのだ。


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