第12話 目的
天井から規則的に落ちる水滴を見つめていると、ふと時間を忘れてしまう事がある。
水滴が作り出す綺麗な同心円を描いたその波が、私の肌に微かに触れる。
雫が水面を打つ音に混じって、小さなため息が漏れた。
今日は色々あった。
突然の来客から始まって、その来客が私と同じところから来ていて。
今落ち着いて思い出してみると、なんだかとても凄いことのように思えてくる。
まあ実際に凄いことなのだろうけど。
「明日は村に行かなきゃ。早めに寝ないと」
村に行く日の朝は早い。
長く滞在することも出来ないので、なるべく滞在時間を取りたい。
季節もそろそろ寒気、日本で言うところの冬がやって来る。
森の恵みも春までお預けだ。
この地方の寒気は雪が厄介なようで、トゥーナから聞いた話によれば軽く数メートルは積もるらしい。
そう考えると、村に行けるのもあと二回と言ったところだろうか。
「明日は忙しくなりそうだな」
「サヤは、今後何がしたい……?」
私は、隣で同じように落ちてくる水滴を見つめるサヤにそう問うた。
「私ですか?私は……私は、えっと、何がしたくてこの世界に……」
目を閉じ首を傾げる。
「突然聞かれても困るよね。ごめん」
「あ、いや別に謝ることでも……!」
「私もこっちに来た時から目的があったわけじゃないし。旅でもしてみてその時に決めれば?」
無責任な言葉ではあるが、私は最初こうしようと思っていた。
あの時人生をやり直したいと言った割に、特にこれと言った目的があったわけではなかったので。
言ったというより、言わされたの方が正しいのか。半ば強制的に飛ばされた気もしないこともないが。
「じゃあユイさんは……ユイさんの、今の目的って何ですか?」
こちらをジッと見つめる、黒く僅かに濃緑色の目。
「私の今の目的?」
そう問うとサヤは静かに頷いた。
「私の今の目的……トゥーナとレノとユーナの三人と、楽しく暮らすことかな」
「楽しく暮らすこと、ですか」
今はそれが一番でそれだけ。
「あっちの世界の家族と過ごした時みたいに、私はこっちの世界の家族とも楽しく過ごす。そう決めた」
「そうですか……」
目的のある私と違って、彼女は多分目的がない。
作ろうと思えば作れるのだろうけど、決してそれが彼女にとっての一番のやり方ではない。
本心からやりたい、と思えることを見つけてそれをやる。
せっかくの、今後二度とない人生のやり直しだ。
当然慎重に決めたくなる気持ちもわかる。
でも、いつまで悩んでいても先へは進まない。
「もしまだ自分の行き先とか目的が決まらないのなら、もう少しここにいる?私は一向に構わないけど」
一つの選択肢として、一つの可能性を彼女に今渡してみた。
あとは彼女次第。
サヤ自身が決める番だ。




