第7話 クロヒメサヤ
「紅茶しかないけど、紅茶飲める?」
棚からティーパックを一つ取り出して、湯気の立つポットの中に沈める。
「あ、紅茶は全然大丈夫ですがお構いなく!」
そうは言われても、やはり客をもてなす側としては出さない訳にはいかない。
紅茶の入ったポットと人数分のティーカップをお盆に乗せ、ダインングテーブルまで運んでいく。
娘二人はまた何処かに行ってしまったようだ。
まあいいか。家の中にはいるはずだ。
「どうぞ、暑いから気をつけてね」
紅茶の注がれたティーカップをソーサーに乗せ、女性の前に出す。
「あ、ありがとうございます」
「いいえ、どうぞ飲んで」
女性はいただきます、と呟きティーカップを口につけた。
そして少し傾け、紅茶を口に含む。
何度かそれを繰り返し、
「美味しい紅茶ですね」
そう言って微笑んだ。
「本当?よかった」
「それに体も温まりました。見ず知らずの私にここまでしていただいて……なんかすみません」
申し訳なさそうな顔をする女性。
「仕方ないよね。気付いたら森の中にいたんだから」
と、私はそこまで言って思い出す。
「あ、自己紹介してなかったね」
家に招き入れて、お茶まで出したにもかかわらず未だに自分のことを何一つ知らせていなかった。
「私はユイ・キサキ・オラデア。長いからユイって呼んでくれるといいかな」
「はい、ユイさん。よろしくお願いします」
女性はぺこりと頭を下げた。
伝える情報は名前と、性別は見てわかるだろうからあとは年齢くらいか。
「あとここまで一緒に来たあの二人の女の子の母親やってます。一応私まだ19歳なので……聞いて驚くかもしれませんけど」
「あ、そのことなんですけど!」
女性がものすごい勢いで食い付いてきた。
「は、はい?」
若干圧倒されつつ、前傾姿勢でこちらに顔を寄せる女性をなんとかなだめ席に座らせる。
「あの、娘さんどう見ても10数歳くらいなんですけど……その、ちょっと事件性あったりします?」
「事件性?」
何を言っているんだこいつは。
「例えば……いや、やっぱり言うのは辞めておきます……」
いやバレバレよ。この女性が何を言いたいか。
「事件性がないわけでもないけど、多分貴女が想像しているような事件性ではないと思う」
私がそう答えると、
「えっと……心読みました?」
「いや……なんかそんな気がしただけだけど」
「そうですか……?」
「うん……」
沈黙が流れた。
気不味い雰囲気の中、お互いに紅茶をすする音だけが響き渡る。
「あの……」
最初に口を開いたのは女性の方だった。
「私にも自己紹介させて下さい」
ああ、そう言えばまだ名前を聞いていなかったな。
「うん、よろしく」
私はそう答えるとティーカップをソーサーに戻した。
「えっと、私はサヤと言います。年は16歳で女です」
16歳と言うと、ちょうど高校一年生くらいで、一番青春してる時期じゃないか。
こちらの世界で青春できるようなことがあるのかはわからないけど。
「あの……」
何か言いたげに口をパクパクさせている。
「ん?どうしたの?」
「変なことお聞きしますが、この世界ではクロヒメサヤと言う名前は通用しないのでしょうか?」
サヤと言った女性が急にそんなことを口走るものだから、私は一瞬彼女の言葉の意味を理解することが出来なかった。




