第32話 幼馴染
「ねえ辰茉?」
「ん?どうした?」
赤く染まった大通りを進む二人。
学校帰りの学生や、買い物袋を下げた買い物帰りの主婦とすれ違う。
とある高校の制服を身にまとった男女は駅に向かって歩いていた。
「週末、暇?」
「週末?」
辰茉と呼ばれた男子高校生が首を傾げた。
「暇ならまたどこか行かない?」
「どこかって……またなんか言われるぞ?」
「また?」
今度は女子高校生が首を傾げる。
「瑳椰は気にしてないのか?……高校生にもなると大抵男女で出かける場合は……その、な?そういう関係に見られるんだよ」
「そういう関係……って?」
辰茉は大きく息を吐いた。
「あのな、幼馴染の男女でどこかに行くってのは小学校までなんだよ」
「えっと……辰茉は恥ずかしいの?」
瑳椰がそう言うと辰茉は顔を赤らめた。
「べ、別にそんな訳じゃないが!」
照れ隠しからなのか、語尾を若干強めて言った。
「あ……まさか、私迷惑だったかな……いっつも辰茉を連れ回してばっかりで」
瑳椰は俯いた。
「辰茉も他の人と出掛けたいよね……そうだよね。高校生にもなったら……」
「あ、いや……別にそんなんじゃ……」
二人の間に沈黙が流れる。
先に口を開いたのは辰茉だった。
「まあ……せっかくだし?出掛けようぜ、一緒に。週末、どこでもいいから」
顔を背け、さらに赤らめ、太陽に顔を隠して辰茉はそう言った。
「……本当に?出掛ける?」
そう言いながら瑳椰が顔を上げる。
「お、おう。どこがいいかな……買い物?カラオケ?遊園地?」
指を折り行き先の候補あげる辰茉を見て、瑳椰は笑い声をあげた。
「な、なんだよ。何がおかしい?」
「別に?なんでもないよー!」
「おい!教えろよ!気になるだろ!」
いつも通りの、幼馴染の会話がそこにあった。
「じゃあ行き先はまた後で伝えるね?」
「おう、了解。じゃあな、気をつけて」
改札を挟んで会話をする二人。
手を振る瑳椰に辰茉も振り返して二人は別れた。
「さて、俺も帰るか」
もうすっかり暗くなった辺りを一度ぐるりと見回すと、辰茉も帰路に着いた。
「ただいまー」
玄関扉を開け、そのまま階段を上がり自室に直行した。
リュックを置くと制服のままベットに飛び込む。
「はぁ……もう疲れたわ……」
そう呟きながら部屋の壁に張り付いているカレンダーを見る。
週末の予定。特になし。
久々に瑳椰と出掛けることになった。
幼稚園からの幼馴染である瑳椰。
元々は家も近所にあった。
家庭の事情とやらで、向こうが中学のときに隣町に引っ越してしまったけれど。
まあ引っ越しと言っても、転校をするわけでもなかったのでそのまま同じ中学校に通い続け高校生に。
そこでも何の縁か同じ高校、同じクラスに。
腐れ縁と言うものだろうか。
とにかくずっと一緒。
「何なんだろうな……一体何の仕業だ?」
机に置かれた瑳椰との写真を眺めていると、コンコンとノックが聞こえた。
「……はい?」
「辰茉?ご飯、できたわよ」
母親だった。
「わかった、今行く」
そう返事をすると、部屋の電気を消して食卓に向かった。
食卓に着くと普段は帰って来ているはずの父親の姿が見えなかった。
「辰姉、父さんは?」
先に座っていた姉に聞いてみる。
「ん?お父さん?なんか人身事故で電車が止まったから歩いて帰ってくるらしよ」
そんな返事が返って来た。
「へー、人身事故ね」
椅子を引っ張り出し、テレビをつける。
「辰茉、知らないの?人身事故起きたのアンタがいつも瑳椰ちゃんと別れる駅らしけど」
「そうなの?でも、俺が瑳椰別れた時は止まってなかったけど?」
「ふーん」
返事を背中で受け止め、テレビのチャンネルを適当に回していると、とある地方ニュースでその手が止まった。
『先程発生した人身事故の影響で現在以下の線区に遅れや運休が発生しています』
例の人身事故の情報のようだ。
ニュースキャスターによって、最新の情報がアナウンスされていく。
「本当だ……瑳椰と別れてすぐ後に起きたんだ。まさかまだ帰れてなかったりするかな」
少し心配になって来た。
瑳椰の家は電車で5駅ほどの距離なので、歩いて帰ることも不可能ではない。
が、外は女子高校生が一人で出歩いていいような明るさではなかった。
「連絡してみたら?瑳椰ちゃんに」
姉にそう言われたので、連絡してみることにした。




