第31話 後悔
椅子に腰掛けると部屋を一望する。
棚や机の上に点在する写真の数々を眺めて、深雪はそう呟いた。
部屋の鍵を受け取って、もう二週間が経とうとしている。
結衣が旅立ってから約三週間。
結衣との過去を思い出すと、なんだか立ち直れなくなる気がして今まであまり深く考えなかった。
心に負った傷は今でも癒えない。
唯一の拠り所であった結衣が側からいなくなり、再び結衣と出会う前に戻ってしまった気がした。
一人で講義を受けて、一人で昼食を食べて、また午後の講義を受ける。
そんなつまらない日々が戻って来た。
「いつか会えないかな……もう一回顔合わせしたいよ……ちゃんと別れの言葉も言っておけばよかった……」
今になって後悔が浮かんでくる。
あの時のこうしていれば、あの時のこう言っていれば。
なぜそうしなかったのかと、自分の心に何度も問いかけた。
また明日も会えるだろう。
いつも通り、一緒に大学に行けるだろう。
いつも通り、どこかに遊びに行けるだろう。
普段の日常がいつまでも続くと思っていたばかりに、一日一日を無駄にしてしまった気がした。
いつ訪れるかわからない人の死など、全く考えもせずに。
死にいち早く気づいていれば、やりたいことは全てやり切れただろうに。
しかし、そんなことをしてまでやりきる意味はあるのだろうか。
死を気にして一日一日を過ごすのは流石に嫌だ。
疲れてしまう。
まあ、死を気にすればするほど後悔はしなくなるのだろうけど。
「後悔……か」
結衣が事故に遭ったあの日。
私は「また明日ね」と言った。
結衣は「うん、じゃあ明日」と返した。
普段通り、いつもの挨拶で別れた。
でもなぜか後になって、なぜもっと丁寧に挨拶をしなかったのだろうか、と考えてしまう。
後から考え直して後悔する。
でもそんなのは、その時はわからない。
あんなことが起きたから、こう考える。
不思議なものだ。
そう思うなら日頃からやっておけばいいのに。
でも、なぜだか安心してまた明日会える気持ちになってしまう。
死など全く考えずに。
「結衣はこっちだね」
「うん、いつもありがとう。わざわざ見送りに来てくれて」
「まあ帰り道もこっちだからね」
「また今度、深雪の家に行ってもいい?」
「私の家?汚いよ?」
「そうなの?ちゃんと片付けないと」
「まあ、ね」
「私が行くまでには綺麗にしておいてね」
「う……が、頑張ってみる」
「うん、じゃあそろそろ行くね」
「じゃあ、また明日ね」
「うん、じゃあ明日」




