第10話 ノコギリ
「いやー……これだけノコギリを引くと腕も疲れるねー」
ギコギコをノコギリを弾きながらそう言う。
ノコギリを引き続けて早三時間。
腕がプルプルして来た。
「ちょっと休憩……」
私はノコギリを置くと、地面に寝転がった。
「うひゃー……腕が動かない……」
「大丈夫?お母さん」
「む、無理はしないでください……」
トゥーナとレノが丸太から降り、私の両隣に跪いた。
「ありがとう……我が娘たちよ……」
四肢を投げ出し寝転がる私を見て二人は、
「腕、マッサージしてあげるー」
「そ、それなら私は反対側を……!」
そう言って二人は私の両腕を持ち上げた。
「マッサージしてくれるのかい……?お二人さんは……」
「うん!」
「頑張ります……!」
頼もしい返事が返って来た。
「ありがと……ああ……気持ちぃぃ……二人とも上手いね……」
固まっていた腕がどんどんほぐされていく。
「ああああぁぁぁぁぁ……」
気持ちよすぎて寝そうだ……
閉じそうな瞼を何度か持ち上げていると、次第に記憶が薄れていった。
そういえば小学生の夏休みの工作の時に、ノコギリを使った気がする。
あれは確か、本棚を作ろうとした。
父親に手伝ってもらいながら、板を切ったのだが、なかなか真っ直ぐに切れず、ジグザクになってしまった。
そんな下手くそな切り口を見て凹んでいる私に、父親が、
「貸して見なさい」
と言って、もう一枚の板を切り始めた。
すると、
「すごーい!真っ直ぐだ!」
父親の真っ直ぐな切り口に感動したことがある。
しかし、それをなぜ今思い出したのだろうか……
「お母さん……」
「お、起きてください……」
「んんぁ……」
両耳から聞こえた声に目を覚ます。
「あれ……私寝てたのか……」
マッサージが始まってからあんまり記憶がない。
「寝てたよ」
「はい、気持ちよさそうに」
「あっそう……寝てたのか……」
疲れでも溜まっていたのかな……
無理は禁物だ。
しっかり休息しないと。
私はそう心に決め、よっこらしょ、と体を起こした。
「うんんん……」
そして大きく伸びをすると、立ち上がる。
「さて、腕に疲れも取れたことだし……残りの丸太も切ってしまおう!」
さらに三時間後。
「うひひいいぃぃぃ……」
最後の一本を切り終えると、私は再びノコギリを地面に置いた。
「だめだ……もうこの腕は使えない……」
二の腕がピクピクしている。
「お疲れさま!お母さん、よくこんなに切ったね……」
「本当に……凄いですね……」
積み上げられた丸太の切れ端。
それはそれは家を一軒作るほどだから相当な本数がある。
それを一日で、しかも人力で切り終えた。
「第一の難関突破かな……」
私はそう言うと、ふらふらと家に戻っていった。




