第8話 読唇術
「私……実は耳が聞こえないんです……」
は……?
「は……?」
今なんて言ったの?
耳が聞こえない?
嘘でしょ?
さっきまで普通に会話してたのに……
「どういうこと……」
突然の告白に動揺する私。
「耳が聞こえなくて……」
「耳が……?聞こえない……?」
若干震える声で、私はそう聞き返した。
「はい。正直に言うと、今のユイさんの声も聞こえません」
「え……でも今普通に話が出て来てるじゃん……どうして……?」
耳が聞こえないのなら、声も聞こえないはず、
それでも、なぜか私との会話は成立している。
「あの……読唇術ってご存知ないですか……?」
「どくしんじゅつ……?」
聞いたことのない言葉だな。
どういう字を書くのだろうか?
そう疑問に思ったら、
「はい、読む唇の術と書きます」
レノが分かりやすく教えてくれた。
「読む唇の術……と言うことは……唇の動きで何を言っているかを読むってこと?」
え?そんなこと出来るの?
初耳ですが、私。
「私の場合は、読めます。ほとんど読めます」
「そうなのか……」
私は口を噤んだ。
そんな私を見てか、
「あの……ごめんなさい……こんなに重要なことをまだ伝えていなくて……やっぱり私は怖かったんだと思います。正直なことを言って嫌われるのが……」
レノが、ものすごく申し訳なさそうな表情をしている。
そして、ぽふりと枕に顔を埋めた。
「そう……でも、私はそんなレノも好きだよ」
私は静かにそう呟く。
そういえば、今の言葉は聴こえていないのか……
私はレノの肩を突き、こちらを向かせた。
「はい……?」
「私は、レノことを嫌いになったりはしない。耳が聞こえないから嫌いになったりはしない。耳が聞こえなくったってレノは私の家族。大切な家族だから」
私の思いを伝えた。
「だから安心してね……おやすみ」
「……はい、おやすみなさい」
私とレノは深い眠りについていった。
「ふぁぁ……おはよ……」
「んん……おはようございます……」
朝日が眩しくなってきた頃、トゥーナとレノが目を覚ました。
「おはよう、二人とも」
私は満面の笑みでそう返す。
「よく寝た……気がする……ふぁ……」
トゥーナはよく寝たと言っている割に、まだ眠そうだ。
「二人とも、今日は作業の続きをしよう」
「りょうかーい……!」
「ん……作業……?」
早速着替えて、朝食を食べる。
四人で囲む食卓は以前より、更に賑やかだ。
私とトゥーナとユーナ。そして今はレノも加わる。
このタイミングで、私はトゥーナにレノのことを話した。
トゥーナは終始無言で聞いていた。
そしてレノが事を話し終わると、
「レノは……たくさん苦労してきたんだね……もうこれからは苦労させないから。だからどんどんトゥーナを頼ってね」
この言葉を聞いた途端、私はなぜか少し泣きそうになった。
「トゥーナこれいらなーい」
「じゃあトゥーナさん、私が食べます……!」
「トゥーナさん、これ……いりますか?」
「レノ、嫌いなの?じゃあトゥーナが食べるね!」
二人もすっかり姉妹みたいだ。
というより双子か?
髪の色だとか、身長だとかはそれぞれ違うけど、歳は近そうだ。
性格的にはトゥーナが姉で、レノが妹かな?
などと、物思いに耽っていると、
「お母さん!早く作業しよ!」
早速朝食を食べ終わったらしいトゥーナが、テーブルから身を乗り出してきた。
「ちょっと待って、もう食べ終わるから」
私がそう答えると、
「はーい!」
元気な返事が返ってきた。
そんな私とトゥーナのやり取りを見ていたレノが、
「作業ってなんですか?」
そう問うてきた。
そうか、レノには村創りだとか、家作りだとか話してなかったな。
「あー、えっとね……なんというか……家作り、かな」
「家作り、ですか?」
不思議そうな顔をしたレノがそこにいた。




