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第19話 鍵

 ある休日。

 遅い朝を堪能していたとき、スマホが鳴った。

「誰……?」

 ベッドの枕元に手を伸ばし、着信音を立てるスマホを取る。


『妃 舞衣さん』


 着信画面にはそう表示されていた。

「結衣の……お母さん?」

 ベッドから起き上がると電話に出た。


「もしもし?由井です……」

『深雪さん?妃 舞衣です。お久しぶり』

「あ、お久しぶりです。……どうされました?」

『今から家、来れる?』


 そんなやり取りだったと記憶している。


 電話の後すぐに家を出た。

 そして、やや小走りで最寄駅へ向かう。

 そこから新宿へ出て、中央線で西国分寺へ。

 武蔵野線に乗り換え、着いた駅は府中本町。

 電車を降り、改札を出る。

 そこからスマホの地図で指定された住所へ。

 10分ほど歩くと、閑静な住宅街の中の一軒の家の前に着いた。

 立派な門構え。

 そこに連なる白塗りの壁。

「ここだよね……?」

 深雪はもう一度スマホの画面を見て確認した。

 しかし指定場所は変わらず、目の前の家。

「ほんとかな……」

 門の周辺をグルリと見回してみる。

 すると、今度は立派な表札を見つけた。

 その表札には、


『妃』


 の文字。

「ここか……」

 深雪は門構えの前で立ち尽くした。

 それから右を見て左を見て、

「なんか……ザ・日本って感じ……」

 そう呟いた。

 それからインターホンを見つけ、恐る恐る押してみる。


 数分後。

「どちら様でしょうか?」

 重厚な門が少し開けられ、着物を着た初老の女性が現れた。

「あっと……」

 てっきり結衣のお母さんが出てくるものだと思ったのだが、予想外に見知らぬ人が出てきた。

 深雪は心配になり、もう一度表札を見る。


『妃』


「あの、妃 舞衣さんはいらっしゃいますでしょうか?」

 なるべく目の前の女性に目を合わせないように、そう言った。

 すると、

「由井 深雪さんですね。奥様がお待ちです。どうぞこちらへ」

 その女性はそう答え、門を大きく開けた。

「どうぞ」

 未だ立ち尽くす深雪に女性は手で門の中を指し示した。

「あ、お邪魔します」

 小さくお辞儀をして中に入った。

「へ……?」

 途端変な声が出た。

 目の前に立派な日本庭園が広がっていた。

「これ……本当に家……?」

 門を閉めている女性に聞こえないくらいの声でそう呟く。

 ぱっと見お寺かどこの風景だ。

 どう見ても普通の家ではないぞ。

 これは何か特別だぞ。

 そう思えて仕方がなかった。


「私は、この家の使用人、棚夏 吉江と申します」

「あ、私は由井 深雪です」

「……」

「……」

 砂利を踏みしめる音だけが響く。

 しばらくして、

「結衣様はよく貴女のことを話していらっしゃいました。奥様や、旦那様に」

「……」

 前を歩く吉江さんはしみじみとそう呟いていた。

「……そうですか……」

「貴女のことを話しているとき、結衣様はとても楽しそうで……」

「……」

 吉江さんが振り向いて、黙る深雪を見ると、

「これはこれは……ただの使用人の独り言でございますよ。そうお気になさらず」

 初めて微笑んだ。


「お待たせ致しました、奥様。由井 深雪様がいらっしゃいました」

「入ってもらって」

「畏まりました」

 襖の向こうで聞こえる会話に深雪は背筋が伸びた。

 結衣の母親には何度か会ったことがある。

 が、ここを訪れるは初めて。

 深雪は緊張していた。


「深雪さん、今日は来てくれてありがとう。体が暖まるからよかったら飲んでね」

 ゴトリと音を立てて目の前に湯気を上げる湯呑みが置かれた。

「あ、お構いなく……」

「はい、お父さんも」

「ああ、ありがとう」

 お父さんと呼ばれた男性が深雪に向かい合って座った。

 そして、口を開く。

「忙しい時に急に呼び出してしまって申し訳ない。私は結衣の父親、由井 結隆。よろしく」

 まず男性は、自己紹介をした。

 予想通り、結衣の父親だった。

「こんにちは、私は由井 深雪です。結衣さんにはいつもお世話になっていました。ありがとうございます」

「こちらこそ、結衣と仲良くしてくれてありがとう」

 結隆はペコリと頭を下げた。

 そして頭を上げると、

「結衣は……こっちに帰ってきたときはよく、君との出来事を楽しそうに話していたよ」

「そう……ですか……」

 不意に結衣の顔が頭の中に浮かんだ。

「結衣の話に君が出てこなかったことはない、と言っていいくらいだ」

「……」


「それでな、今日来てもらったのは……」

 結隆はそう言うと、机に置いてあった箱を深雪の目の前に置いた。

「これ……ですか?」

 深雪が首をかしげると、

「開けて見てくれ」

 そう促された。

 深雪は箱に手を伸ばすと、蓋に手をかけた。

 そこでもう一度結隆の顔を見る。

「……」

 無言でコクリと頷く。

「し、失礼します」

 ぎこちない動作で蓋を開ける。

 すると中には、一つに鍵が入っていた。

「これは……?」

 深雪がそう問うと結隆は、


「結衣の家の鍵だ」


 そう言った。

「家の……鍵……?」

 深雪がそう問うと、

「ああ、その鍵は……結衣本人が持っていた鍵で、事故当時も……鞄に中にあった」

「結衣の……」

 深雪は箱の中の鍵に見入った。

「それで……この鍵が……どうしたんですか……?」

 深雪が首をかしげる。

 すると結隆は、


「……この鍵は君が持っていてほしい。もし、結衣のことが恋しくなったりしたら、この鍵を使って家に入ってくれて構わない。あの結衣の友人だ。私は、君を信用しているよ」


 そう言った。

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