第1話 天使さん
目が覚めると私は浮かんでいた。
「どこだ、ここは?」
上も下もない世界。否、上と下の区別が無い世界。
「もしもしお嬢さん」
ふと下の方、私の背中側から声を掛けられた。
「はい……?」
声のした方を見ると、下の方からパタパタと羽を動かし上がってくる人影が見えた。
「こんにちは、お嬢さん」
「あ、こんにちは」
反射的に返事をした。
声の主を良く見るとその人は天使だった。
背中に羽が生えている。どうやらこの羽で飛んで来たらしい。先ほどのように。
「天……使?」
天使なんて生まれて初めて見たぞ。反応に困るなぁ。
「やっぱり天使ですか……?」
「その通り、私は天使ですよ。あなたに用があってここに来ました」
私に用?
「聞きたくないかもしれませんが、あなたは19歳という若さで亡くなってしまいました」
「あー……やっぱり私死んだんですか」
そうだとは思ったけど、初めてここで自分が死んだという実感が湧いた。
死か……
親より早かったな。まだ何にも親孝行なんてしてないのに。
友人はどうなったのだろうか。まだまだ話したいこと、遊びたいことがあったのに。
少し怖いな、この後どうなってしまうのか。
まだ19年しか生きてなかったな。これだけ早く逝ってしまうとは。これから先、もっと面白いことがあったかもしれない。
「お嬢さん」
天使さんに呼ばれた。
「あなたに一つチャンスを与えましょう。」
急に天使さんの口から出た言葉に、私は思わず聞き返した。
「チャンス?」
何だチャンスって。
「ええ、もう一度その人生をやり直してみませんか?」
は……?
「は……?」
人生のやり直し?
「聞いたことないですけど、人生のやり直しなんて」
私が天使さんにそう言うと
「当然です。本当は人生にやり直しなど存在しません。」
当然の答えが返って来た。
のだが、それだと矛盾してるような。
「あっ、本当はないんですよね、やり直し?なら何故私はやり直しを?」
「それはですねぇ、少し話しにくいことなんですが……」
こちらに顔を近づけてくる天使さん
「なんでしょう?」
ゴクリと喉が鳴る
「あなたが若い女性だから、です。」
は……?
「は…… 」
若い女性だから……?私が……?
「じっ、じゃあおばさん、だった場合は?」
「ないです」
「そっ、それならイケメンだった場合は……?」
「ないです」
このとき私は確信した。
この天使さんは百合っ子で、己の権力を乱用しストライクゾーンにだけに優しいんだな、と。
それは本当に天使のすることなのか?と、疑われてしまう。
実際もう一人にはそう疑われているが……
「そういうことなので、ぜひ新しい自分を楽しんで来てください!ちなみに今の年齢からのスタートですよー。急に老けてるとかはありませんのでご安心を。」
その声と同時に私の体がまばゆく光始めた。
「あっ、ちょっ、待って!」
どうも、私の声は届かずに次の世界に送られてしまうようだ。
「行ってらっしゃーい!」
某有名テーマパークの係員のような笑顔で私は見送られた。
「これは夢かな……?」
私はこのつぶやきを最後に段々と意識が薄れていった。