第20話 約束
喪服を纏った人達がゾロゾロと建物に入っていく。
その中には深雪もいた。
昨日、結衣が亡くなったことを結衣の父親から聞いた。
「結衣が人身事故に遭った」
あの朝、深雪は結衣の父親に電話で泣きながら詳細を聞いた。
話を聞いてるうちに、様々な感情が飛び出して来た。
深雪の頭の中では、結衣を過ごした日々が卒業式のスライドのように流れていた。
結衣の父親から訃報を聞き、その日のうちに深雪は結衣の遺体がある病院へと向かった。
教えてもらった病院のエントランスに着くと、結衣の母親が立って待っていた。
「こんにちは、お世話になっております。由井深雪です。……あの……お、お悔やみ申し上げます」
深雪はクイっとお辞儀をすると、
「……」
結衣の母親である舞衣はコクリと頷くと、
「それでは、行きましょうか」
と、静かにそう言った。
舞衣に先導され、病院のエントランスから中に入り奥のエレベーターで7階へ上った。
ウィーン、と静かな音を立ててエレベーターの戸が開くと、薄暗い廊下が目の前に続いていた。
ところどころ付いている電気が、不気味さを増している。
エレベーターを降り暗い廊下を少し進むと、ある両開きの戸の前で舞衣は立ち止まった。
「着きました……心の準備を……」
舞衣にそう言われ深雪は深呼吸をした。
病院独特の消毒液の匂いが鼻腔の奥を刺激する。
「……いいですか?」
そう聞かれ、深雪はコクリと静かに頷いた。
舞衣は、目の前の戸をゆっくりと片側だけ開け中の入ると、深雪を招き入れた。
遺体安置室は廊下とは対照的に明るい部屋。
やや広めの部屋の中央に、ベッドと白い布で覆われた枕飾りが置かれている。
深雪はゆっくりとした足取りで、ベッドに近寄る。
「……ああ……!結衣……!」
ベッドの上で安らかに眠る結衣の顔を見た途端、深雪は両目から涙が溢れるのがわかった。
「結衣……結衣……!」
結衣の遺体に近付くと深雪は涙に濡れた目で、対面した。
「あ……結衣……なんで……?なんで死んじゃったのよ……うぅ……結衣……」
次々と流れ落ちる涙。
幾度となく嗚咽を漏らし、深雪は結衣の枕元で泣き続けた。
深雪は葬儀場に入ると、目を瞑った。
目を開けていたら涙が流れて来そうな気がした。
結衣の、生涯の最高の友達の旅立ちくらい笑顔で送り出してやりたい。
そう思い、葬式では泣かないと決めた。
それでも、目を開けていると涙が流れて来そうだった。
しばらくして開式の辞が始まった。
読経や焼香も終わり、「お別れ」となった。
深雪は舞衣に促され、結衣の眠る棺の前に立った。
檜の棺の中では死化粧で整えられた、結衣の安らかに眠る顔があった。
その優しそうな顔を見た途端、泣かないと決めていた筈なのに、目から涙がボロボロと溢れて来た。
「結衣……嫌だよ……こんなところでお別れなんて……まだまだしたいこともたくさんあったのに……結衣がいないと、私……どうしていいか……」
深雪がそう呟いた途端、
―そう泣かないで、深雪―
何処からか、結衣の声が聞こえたような気がした。
「結……衣……?」
―ほら深雪泣かないの。可愛い顔が台無しだよ?―
再び結衣の声が聞こえた。
「結衣……うぅ……」
深雪は喪服の袖でグイッと涙を拭うと、
「な、泣いてないし」
そう言って無理に笑顔を作った。
―そう?よかった。……ごめんね?深雪。私、死んじゃった……本当に、ごめん―
「何言ってるの……結衣は……悪くない」
―まだまだそっちでやりたいことはたくさんあった。もっと深雪と遊んで、お話しして……もっと楽しみたかったな……―
「結衣……私だって結衣をもっと遊びたかったよ。でも……でも仕方ないじゃん。結衣だって……死にたくて死んだわけじゃないじゃん……」
―そうだね……もっと……生きたかったな……―
「……ねえ結衣」
深雪は結衣の名を呼んだ。
そして、
「私、結衣の分まで生きるよ。元気に、さ。でも、楽しいこととか悲しいことは半分こ。ゆっくり二人で生きていこう?」
そんな深雪の言葉に、
―うん……じゃあ私の残りは深雪に任せた。だから……しっかり生きてよ、私の分まで。笑顔でさ―
そんな結衣の言葉に深雪は、
「うん……!」
満面の笑みを結衣の顔に向けた。
心なしか、結衣が笑った気がした。
気のせいだよね……結衣?




