第18話 死
『あ、結衣?お母さんだけど。最近どう?』
「久しぶりだね。……最近どうかと……んんー」
『困ってることとか、悩んでることとか。なんかある?お母さん、相談に乗るよ?』
「とは言っても……そう特にはないねー。うん、大丈夫だよ」
『そう?何かあったらすぐ電話しなさいよ?』
「はーい」
『あぁ、あとさ。結衣、次はいつ帰ってくる?』
「次かー……大学の休みは……来月の3連休かな」
『わかったわ。お父さんが早く会いたいって言ってるし、結衣の元気な顔を見たいって』
「あー、お父さんね……わかった。じゃあ、元気だよって伝えといて」
『はーい。じゃあ、来月ね』
「うん、じゃ」
久しぶりに実家に帰るはずだった。
お母さんやお父さんに元気な顔を見せるはずだった。
大学で起きた面白い話や、友人を過ごした休日の話をするはずだった。
けれど、その一週間前、私は死んだ。
私が見せることができたのは、魂が抜け往った安らかに目を閉じた顔だった。
「結衣!目を開けて……!結衣!結衣!……結衣……ううぅ……結衣……」
「結衣……」
病院の遺体安置室にて、二人の人影がベッドに横たわる遺体の側で身を縮こませて椅子に座っていた。
一人はハンカチを手に啜り泣き、もう一人は片方の背に手を添えていた。
『もしもし?妃さんのお宅で間違いないでしょうか?』
「ええ……そうですが……どちら様でしょう?」
ある晴れた夜のこと。
妃家に一本の電話が掛かってきた。
「えッ!?ええ、はい、わかりました」
舞衣はガチャリを受話器を置くと、
「お父さん!テレビつけて!」
「なんだ、騒がしいなぁ。テレビか?何チャンだ?」
「いいから、早く!」
「わかったよ……そう急かすな」
結隆は机の上のリモコンを手に取ると、テレビの電源を入れた。
『――で発生いたしました人身事故の影響で、只今JR線の一部で運休が発生しております。JR線の運休区間は代行輸送を行っており――』
スーツを着たアナウンサーが人身事故で生じた運休のことを伝えていた。
場面が、スタジオから駅の映像に差し代わる。
しかし、舞衣は、
「他のチャンネルは!?」
結隆のもとに駆け寄り、チャンネルを奪い取った。
「そう慌てるな、何があった。一体」
結隆が舞衣を落ち着かせるように、両肩を掴むと顔を向かい合わせた。
「ゆ……結衣が……」
「結衣がどうしたんだ?」
結隆がそう聞き返すと、テレビから別のアナウンサーの声が聞こえてきた。
『今日午後七時頃、東京都新宿区の――駅で発生した人身事故で、大学生と見られる女性が電車に撥ねられ死亡しました』
「は……?なんだ……よ……」
「うあぁぁあぁあぁ……」
結隆は目を見開いた。
隣で舞衣が両手で顔を覆い泣いている。
「人身事故……?結衣が、か?……はは、嘘だよな?なあ、母さん、嘘なんだよな?この大学生が結衣だって言うのかよ……なあ、どうなんだよ」
結隆は舞衣の方を向く。
「結衣は死んでないんだよな?黙ってないで、何とか言ってくれよ!結衣は本当に死んだのか!?」
舞衣の顔を上げさせ、涙に濡れた目をじっと見つめる。
「結衣は……結衣は……」
「結衣が、なんだよ……」
「さっき……警察の人から電話があったの……」
「……」
「結衣が……亡くなったって……」
「結衣……が……?」
結隆が天井を見上げた瞬間、電話口から何やらこちらを呼ぶ声が聞こえた。
「繋がったまま……か」
結隆はゆっくりと立ち上がると、棚の上の電話の受話器を取った。
「もしもし」
『妃 結衣さんの父親でいらっしゃいますか?』
「ええ、そうです」
『夜分遅くに失礼します。私は――警察署の大多義と申しまして…… 』
大多義との名乗った警察官も声が少し震えている。
『結衣さんと見られる方が電車に撥ねられまして、カバンから学生証が見つかったのですが……』
「はは……嘘だろ……」
結隆は受話器を持ったままその場に跪いた。




