第15話 甘えんぼさん
「はひぃー……」
「ふうぅー……」
思わず声が漏れてしまった。
今日の疲れを温かいお湯が癒してくれる。
湯に浸かると全身の毛穴から疲れが染み出す、のようなことをよく聞くが正しくその通りだった。
「温かい……」
「蕩けそう……」
適度な暖かさの湯が体を丁寧に包み込む。
「今日は……色々あったね……」
木目調の天井を眺めながら、私はトゥーナにそう言った。
「うん……疲れた……」
「じゃあ今日はゆっくり休んでね……」
「うん」
今日は本当に賑やかな一日だったな。
気がついたら森で倒れてて、トゥーナと出会って、串焼きを食べて、おじいさんとおばあさんと会話して……
充実していた。
意外とこちらの世界でも楽しめてるな、私。
日本に戻りたいと思ったことが何回かあったけど、何だかんだでこのままでもいいかなとか思ったりした。
ザバァ、と音をたててトゥーナが立ち上がった。
「ん?どうした?」
「体、洗う……」
未だ眠そうなトゥーナは湯船から出ると、小さな腰掛けにちょこんと座った。
「ああ……」
私はトゥーナが出て広くなった湯船の中で体を思いっきり伸ばすと、伸びをした。
湯船の淵に頭を乗せると肩まで湯に浸かることができた。
「あー……身長はあんまり変わってないか……」
自分の裸体を見て気づいたが、体は元のままだった。
身長が伸びただとか、胸が大きくなっただとか、全くそんなことはない。
向こうの結衣本人である。
欲を言えば、もう少し胸が大きいとよかった。
だが逆に体が向こうの結衣と変わらないことで、本当に転生したんだなと言う実感が湧いてくる。
「トゥーナ、髪洗ってあげようか?」
トゥーナが体を洗い終えたところで、そう聞いてみた。
「あ、うん」
コクリと頷くトゥーナ。
「じゃあ」
私も湯船から出るとトゥーナと立たせて腰掛けに座る。
「膝に座って」
自分の太ももをポンポンと叩くとトゥーナがちょこんと腰掛けて来た。
「お湯かけるよ、目瞑っててね」
そう促すと、
「うん」
と答えて、トゥーナが目をキュッと瞑った。
私は湯船から桶でお湯をすくい上げると、ザバっとトゥーナの頭に掛けた。
「ふぁぁ……温かい」
トゥーナが気持ちよさそうに声を上げる。
「じゃあ洗うね」
手にシャンプー(と思われるもの)を取り、泡立てる。
「目に入ってたら滲みるぞー?」
そう言うとトゥーナはさっきよりも強く目を瞑った。
なんか素直で可愛いな。
「それでは、失礼します」
そっとトゥーナの髪を洗い始める。
「どう?力加減は」
なるべく強くないようにはしているけど、私自身、本人がどう思っているかは分からないからね。
「うん、大丈夫かな。気持ちいい」
それならよかった。
シャカシャカとトゥーナの長い髪を洗っていく。
「トゥーナ、髪長いね。それに綺麗」
「そう……?……ありがと」
すこし恥ずかしそうにトゥーナは答える。
「お、お母さんの髪も長いじゃん。綺麗だし……」
「ありがと、トゥーナ。じゃあ、流すよ」
再び桶でお湯をすくい取ってシャンプーを洗い流した。
「いいお湯だったね」
「うん……もうトゥーナ寝る……」
「そう?じゃあお休み。ゆっくり休んでね」
「うん。お休み……」
トゥーナがベットに入ると上から布団をかけてあげる。
すると、
「……隣……来て?」
トゥーナが私の手を握ってそう言ってきた。
「……隣?」
甘えんぼさんだな。
「わかった。ちょっとだけね」
「うん……」
ベットに入ると私はトゥーナの方を向いた。
「お休み」
優しく頭を撫でてやると、程なくしてスヤスヤと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
「ゆっくり休んでね……」
私はそう言うと、ベットから出て窓際のテーブルへと向かった。




