第22話 嫌い
心臓の鼓動が速まるのがよくわかる。
大きく深呼吸をして自らを落ち着かせる。
「ふぅ……」
「大丈夫ですか?」
ドアノブに手を掛けサヤが振り向く。
「なんとか、ね。謝ろう、全部」
サヤはコクリと頷くと扉を開けた。
カーテンで閉ざされた、暗い部屋に灯るランプに照らされる二つの影。
見覚えのあるシルエット。
どちらの影がどちらかも、聞かれれば答えられる。
一歩、足を踏み出す。
「レノ、ちょっと、お話がしたい……いいかな」
恥ずかしさに顔を染めて、静かに問いかける。
するとベットからトゥーナが飛び降りて来た。
「お母さん!しっかりレノを励ましてあげて!」
そう言って扉の向こうに消えてしまった。
「ユイさん、やることやって二人とも笑顔で帰って来てください!」
サヤもそう言い残すと扉をそっと閉めて出て行った。
パタンと音が鳴り、今この空間には先ほどと同じように私とレノの二人きりになった。
黙っていては仕方がない。
謝るのは私の方だ。
「レノ……?さっきはごめんなさい」
返事はない。
ベッドの上で膝を立てて座っているレノ。
視線だけが注がれる。
「ごめんなさいじゃ済まされないことをしたのはわかってる。出て行けとか二度と帰ってくるななんて、間違っても言っちゃいけない」
胸の奥がキュッと痛む。
「こんなの母親失格だよね……大好きな娘の心に傷を付けちゃった時点でもう……」
ポロポロと頬を伝う涙。
寝巻きの袖で目頭を拭うが、涙は止まらない。
「本当に情けない。大好きだ、愛してるなんて言ってるけど結局は自分の勘違い。一歩的に愛を押し付けてそれで満足してた」
レノの視線は相変わらず私を見つめている。
「一回考え直すね。このままじゃ絶対にダメ。色々考え直して、場合によってはもう……二人とは……」
「やめてよ!」
今まで黙っていたレノが急に声を上げた。
「やめて!お母さん前自分を否定しちゃダメって言ってたじゃん!でも、なんで……なんで自分のことになると否定ばっかりするの?」
「それは……」
言葉が出ない。
「自分で言ったんだから責任持ってよ!人に言っておいて自分は実行できないならもう何も言わないで!もう黙っててよ!話しかけないで!」
全身から血の気が引いていく気がした。
「あ……レノ……?」
「もうお母さんなんて大っ嫌い!嫌い!嫌い嫌い嫌い!」
「レノ……」
「話しかけないで!もう何も言わないで!」
レノは布団を被ると大声で泣き出してしまった。
嫌われた。
完全に嫌われてしまった。
謝るつもりが、悪化させてしまった。
全てを失った。
もう何もかもが終わった。
レノに言い放たれた言葉が脳内で何度も再生される。
思わずその場にへたり込んでしまった。




