第19話 扉の向こう
「あの二人遅いね」
「あー、確かに」
サヤはトゥーナと一緒に、再び外に出るための準備を進めていた。
ストーブの前で乾かしていた小さい方のコートを手に取り、乾いていることを確認するとそれをトゥーナに手渡す。
「こんな短時間でも結構乾くね。はい、どうぞ」
「ありがとう!」
自分のコートも乾き具合を確認し羽織る。
手袋と帽子も持って玄関へ。
「一応ユイさんに声掛けに行こうか」
二人で先に外に行くことはもう既に伝えてあるのだが、一応のことも考えて一声掛けることにした。
「うん!」
トゥーナ連れて廊下を進む。
「先に二人で雪合戦?それとも準備する?」
「どうしようかな。サヤお姉さんはどっちいい?」
「私?私はトゥーナちゃんのやりたい方でいいよ」
「本当?じゃあパパッと準備して先に二人でやろ!」
これから行われる雪遊び第二部に期待を膨らませながら、二人で意気揚々と風呂場へ向かった。
「お母さん!先外に行くね!」
トゥーナが風呂場の扉に向けてそう叫んだ。
しかし返事はない。
「あれ?」
「どうしたんだろうね」
風呂場の扉をあけて中に入る。
そこにはまだ二人分の着替えとバスタオルが置いてあった。
二人で浴室の扉を開けようと手をかける。
その時、大きな声が響き渡った。
反射で伸ばしていた手を引っ込める。
トゥーナと顔を見合わせて固まった。
二人で首を傾げる。
「お母さんの声?」
「だね」
声を潜めて二人で頷きあう。
今は、なんとなく中に入れる空気ではないことがわかった。
「やっぱり戻ろうか」
そう言いかけたところで、今までとは一段大きな声が響いた。
出て行きなさい。
荷物をまとめて家を出ろ。
今までに聞いたことのないユイの声に、サヤはサーっと血の気が引く感覚を覚えた。
「ユイさん……?レノちゃん……?」
今浴室にはあの二人しかいない。
そこから考えられる最悪の状況に思わず体が硬直する。
目の前の扉を開けようと手を伸ばすが、動かない。
「ちょっと……開けて……!」
扉の向こう側にそう訴えかける。
が、返事はない。
目を向けてトゥーナを見る。
同じように固まっていた。
それを見て一切の動きを拒んだ腕の力が一瞬緩んだ。
それと同時に浴室へつながる扉押し開けた。
目に飛び込んできたのは、ユイが力なく後ろに倒れる姿と、泣きじゃくるレノの姿。
「ユイさん!」
サヤは一瞬の判断で倒れかけていたユイを支えると、そのまましっかりと抱きかかえた。
どうやら気を失っているようだ。
脇と足に手を回してお姫様抱っこの要領で持ち上げる。
「トゥーナちゃん、ちょっとレノちゃんをよろしく」
そうお願いをすると、濡れているユイの体をさっと拭いてバスタオルで巻いてやり、おんぶをして寝室まで運んだ。
寝巻きを着せベッドに寝かせてやる。
「ユイさん……何しちゃったんですか?」
目を瞑るユイにそう問いかける。
当然返事はない。
廊下の方で物音が聞こえたので見に行ってみると、レノを連れたトゥーナがいた。
途中で目があった。
頷くトゥーナにサヤもつられて頷く。
そのまま二人が隣の部屋に入って行く姿を見届けると、少し開けていた扉を静かに閉めて再びベッドの元に戻った。
ベッドの端に腰掛けながら考える。
一体風呂場で何が起こっていたのだろうか。
あの状況から見て親子喧嘩だろうか。
自分の知らないところで起こる家族のいざこざ。
少し居た堪れない気持ちになりながら、サヤはユイが目を覚ますのを待った。




