第17話 邪魔
「お願いだからもう少しだけ浸からせて……」
雪合戦をするにはまだ体が完全に温まっていない。
このまま外に出たら風邪を引いてしまいそうだ。
それに濡れたコートもまだ完全に乾いていない。
「えー、でも……」
口を尖らせるトゥーナ。
「ほら、まだ体冷たいよ?お母さんの言う通り、もう少し浸かってよ?」
サヤがそう言い聞かせる。
「でもトゥーナは大丈夫だよ」
「ダメダメ。ほら、体をしっかり温めて」
優しく促すサヤはまるで母親のように見えた。
母親の私が何を言っているのだろうか。
でも、そう見えて仕方がなかったのだ。
「はーい……」
トゥーナは言われるがまま、再び湯船の中に体を沈めた。
「じゃあさ、六十秒数えたら出よう?」
「うん、わかった」
サヤの提案にトゥーナは大きく頷いた。
二人が一緒に数を数え始める。
そんな姉妹のような、仲睦まじい光景を眺めているとレノがコツンともたれかかってきた。
「ん?どうしたの?」
レノはこちらに顔を向けることなく、ジッと二人のことを見ていた。
それから少し経って、サヤとトゥーナが六十秒を数え終わると、ザバと立ち上がり湯船から出た。
椅子に腰掛け、トゥーナを膝に乗せて体を拭いてあげている。
レノは相変わらず見つめ続けていた。
「じゃあユイさん、トゥーナちゃんと一緒に先出てますね」
サヤは拭き終わった体を惜しげもなく晒し、そう言い残すと浴室から出て行ってしまった。
私とレノ。
二人だけ残された浴室に、天井から滴る雫が水面を跳ねる音が響く。
「お母さん……」
いくつ雫の落ちる音が聞こえただろうか。
突然レノが口を開いた
「どうしたの?」
私の向かい側に移って膝を抱えるレノ。
もう一度問い掛ける。
「どうかした?」
ゆっくり、はっきりと。
しかしレノは首を左右に振るばかり。
「寂しい……?」
考えた末。
今までのレノを見てきた上で、表情や話し方から少しずつ感じ取っていた、今彼女が感じているだろう思いを問うてみた。
俯くレノ。
そして小さく首を縦に振った。
「やっぱり、そうだよね」
「姉さんは……最近サヤお姉さんと仲がいいみたいで……」
無言で頷く。
「ちょっと遠いところに行っちゃったみたいな……置いてかれたみたいな……」
大好きだった唯一の姉が、突然現れたもう一人の姉と共にどこかに行ってしまった。
「私も二人と一緒にいたいけど……本当にいてもいいのかなって」
「レノ……?」
「あの二人から見たら、本当は私は邪魔なんじゃないかって……」
「違うよ。違う」
それは違う。
「絶対に違う。二人はそう思ってない。二人ともレノのことが大好きなはずだよ?」
偏った一方的な考え方は危ない。
「レノは邪魔なんかじゃない。レノがいてこその家族なんだから。だから、そんなことは言ったらダメ」
「お母さん……?」
レノは大切な家族だ。
人生を共に過ごすための、大切なパートナー。
邪魔なわけがない。
「でも……私、耳も聴こえないから、何というか、ちょっと面倒くさいし……やっぱり邪魔かなって」
心の底から紡がれるレノの想い。
でも、間違っている。
「こんな私が、ここに居ていいのかなって……」
「やめなさい。ダメ、それ以上は言わない」
少しの怒りと、少しの悲しみとが混ざり合って、何とも言えない気持ちが心を満たす。
「自分を否定しない。レノの居場所はここ。それはいつでも、誰が何と言おうと変わらない。レノはここにいる」
「でも……!」
「違う……!」
再びの沈黙。
膝に顔を埋めるレノ。
隣に並び肩に手をポンと置いた。
そのままレノが顔を上げるのを待ち続けた。




