第9話 見つけた
村を見ているとふと、あの時の言葉が思い出された。
「人生に……疲れた……?」
「まあ……」
あの日の言葉だ。
私が深雪に人生相談をした、あの日の。
その時の深雪の悲しそうな顔が頭に浮かぶ。
「あの時は変なこと言ったな……人生に疲れた、か」
私がそう呟くと、隣で手を繋いで歩いていたトゥーナが「どうしたの?」と首を傾げた。
「ううん、なんでもない」
私はそう答え、トゥーナに微笑む。
するとトゥーナも微笑み返してくれた。
「今は……楽しいかな」
あの時、心配した深雪に「何か楽しいことでも見つけるよ」と言った気がする。
色々と間にあったけど、今は楽しみを見つけることができた。まあ、少し遅かったかなという気がしないこともないが……
あの時は都会で窮屈な生活をするのが嫌になっていた。
四方をビルや人に囲まれ、目の前を自動車が忙しなく往来する。
空気が悪く、気温も高い。
夜になれば星は消え、月に霞がかかる。
煌々と輝くビルの明かりに照らされて、一人寂しく誰もいない自宅へ帰る。
四季もないただ単調な風景に見飽き、田舎に憧れた。
春になれば桜が咲き、夏になれば木の葉が青々と茂り蝉の声が辺りに響く。秋になると山は赤や黄色で着飾り、冬になれが辺りを雪が包み込む。
都会にはなくて、田舎にはある情景。
多くの人がいる都会では自分の存在意義を失いかけた。
自分一人くらいいなくても、この社会は機能していく。不必要な自分。そんなことを何回も考えた。
まるで都会は牢獄のよう。四方をコンクリートの壁に囲まれ、四季の感じることもなく時は過ぎ、自分の存在が無になってくる。
牢獄のよう。
都会という窮屈な檻の中で生きるのは疲れた。
生きる目的を失いかけ、ただ目的もなく日々大学へ行った。
ひたすらに勉強を続けた。生きる意味を失いかけてもなお、勉強だけは、した。
自分の思いを勉強で誤魔化した。
しかし、生きる意味を失いかけた世界でも楽しいことはいくつかあった。
思い出せる中で一番楽しかったことといえば深雪を話し、遊んだこと。
他にも家族と出かけたり、旅行に行ったり。
今思えば私は、ただ都会という名の檻に嫌気がさしていただけかもしれない。
本当はただ、田舎に住みたいという自分の身勝手な想いから生まれたのではないか。
「人生に疲れた」
この言葉の奥には、そういう意味があったのだろう。
そう思えた。
都会という檻から解放された今、できることなら深雪に、報告してやりたい。
『楽しめることを見つけたよ。人生楽しんでる』
と。
「お母さん!早く行こっ!」
娘が私を呼んでいる。




