第6話 門灯
目の前の真実からまるで目を背けるように、震える指でインターホンを押した。
辺りの静寂を突き破るように、インターホンの電子音が鳴り響く。
少しばかり待ってみるも返事はない。
当然だ。
家の電気が全て消えていた。
おそらくいまこの家には誰もいないのだろう。
普段は必ず付いている門灯も、ここから僅かに見えるリビングルームの光も、勝手口の蛍光灯でさえ暗いままだ。
それでもインターホンを押し続けた。
いつか誰かが出てくれることを願って。
どれくらいの時間が経っただろうか。
人差し指が痛い。
それでも、祈るようにインターホンを押し続けた。
「辰茉君?どうしたの?黒姫さん家は留守みたいよ?」
肩にそっと手が置かれた。
声のした方へ振り向くと、そこには見知った顔。
瑳椰の家の向かいに住むおばさんだ。
顔見知りのその人にはやる気持ちを抑え込み、ゆっくりと問うた。
「瑳椰の事、知りませんか?」
「瑳椰ちゃん?」
おばさんが首を傾げる。
「そう言えば今日はまだ見てないわね……」
「そう……ですか……」
再びの絶望。
おばさんと顔を合わせていないとい言うことは、まだ家に帰ってきていないのだろう。
となるとやはり……
頭を振って無理やり思考を捻じ曲げる。
そんなことを考えてはいけない。
瑳椰はまだどこかにいるんだ。
きっとあの後寄り道をして、もうすぐ帰ってくる。
もしかしたら、家族で出かけたのかも知れない。
そうだ、夕飯を食べに行こうとしたら、たまたま駅で人身事故に遭遇して、そこでずっと電車の復旧を待っていたんだ。
駅で見た光景はこれだ。
なんとか自分を落ち着かせるために、良い方向へ思考を転換させる。
「何かあったの?」
おばさんが心配そうに尋ねてきた。
「あ……いや、ちょっと瑳椰のことが心配で……」
家で見たテレビのこと、行きに駅で見たあの光景。
話そうと思えど、口から出てこない。
よくわからない、曖昧な返事をして自転車にまたがった。
「一回帰ります。それで、少し経ったらまた瑳椰に連絡してみます」
「そうね。その方がいいかもね」
「もし瑳椰が帰ってきたら、俺に電話かメッセージ入れるように言っておいてください。お願いします」
おばさんにそうお願いすると、カバンを掛け直し、自宅に向かって自転車を漕ぎ始めた。
今度は駅の方を通らず、少し遠回りの道で帰った。
駅の前を通るのが怖かった。
家に着くと母親が玄関で待っていた。
「お帰り。急に飛び出してどうしたの?」
後ろから顔がもう一つ。
「瑳椰ちゃんどうだった?」
「…………」
無言で二人の脇を通りすぎると、洗面所で手を洗って自室に向かった。
ドアを閉め、ベッドに寝転がる。
枕に顔をうずめ、目を瞑った。




