第2話 留守電
「嘘だろ……なんであそこに……」
見覚えしかなかった。
自分の目を信じたくはなかったが、あの二人は間違いなく瑳椰の両親だ。
何度も挨拶して、何度も会話をしたあの両親だ。
家にお邪魔した時に快く迎え入れてくれた、あの二人。
見間違えるはずのない、己の目への絶対的な自信と、あの二人は瑳椰の両親ではない、と言う直感。
双方向への矛盾をも否定し、自分に言い聞かせる。
急に足に力が入らなくなり、よろよろと後ずさった。
背中が誰かに触れる。
「大丈夫か?」
頭上からそんな声が聞こえる。
支えてくれた誰かに会釈をすると、ポケットからスマホを取り出し電話を掛ける。
相手はもちろん瑳椰。
無機質なコール音が鼓膜に響く。
「出てくれ……頼む、出てくれ……!」
スマホを握りしめて願う。
『こちらは、留守番電話サービスです――』
ガチャリと音が鳴り、機械音声が聞こえた。
「クソッ……!」
リダイヤル。
コール音とともに心臓の鼓動が速くなる。
『こちらは――』
「クッ……なんで……!」
右手が思うように動かない。
「そうだ……」
スマホをポケットにしまうと、人混みを掻き分けて来た道を戻る。
自転車にまたがり、自宅とは反対の方向へ漕ぎ始めた。
高架を走る線路に沿って道を進む。
電車が止まっている影響か、通りはいつもより人が少ない。
限界に近い速さで漕ぎ続けた。
脚が悲鳴をあげる。
小刻みに震え、攣りそうになる両脚。
いくつか駅を超えたところで線路から離れ遊歩道へ出る。
この道を通ったのはいつだっただろうか。
確かその時も電車が止まってしまって、心配だから家まで送ると言って雨の中を二人で歩いた覚えがある。
その回想を皮切りに、水中から浮き上がる泡の如く、次々と思い出が脳裏に浮かんだ。
楽しかった瑳椰との思い出、他愛もない事で喧嘩をして二人で涙を流したあの思い出。誰よりも早く祝ってくれた誕生日の思い出。
ありふれた思い出が、今になって懐かしく寂しく感じる。
心のどこかで、瑳椰が手の届かないところまで行ってしまったと思い始めている自分がいる。
しかしまだ諦めてはいない。
このまま瑳椰の家に行き、インターホンを鳴らすと元気よく瑳椰が出てくる。
そんな事を期待している。
最後の角を曲がり、目の前に見える家の前で自転車を止めた。
が、家を見上げると同時に今まで抱いていた希望は全て崩れ去り、代わりに絶望が築き上げられた。




