第8話 疲れても...
「ほぇ?」
私の答えがあまりに意外だったのか、深雪は間抜けな声を発した
「人生に……疲れた……?」
「まあ……」
すごく驚いた顔をする深雪。
「そんなセリフ……ドラマでしか聞いたことないのに……!?妻と離婚し、会社はクビに。さらに貯金も底をつき、生きる意味を失う。そして言うのである。『人生に疲れた』と。そのセリフも、今はもう女子大生のものなのか!?」
「おいおい……」
どんな状況だよ。
「まさか、学校退学!?それが親にバレ『あんたなんかうちの子じゃないわ!出て行きなさい!』と!?」
いや私一人暮らしだし……
「そして住処を失い街をうろつく。気付けば貯金も底をつき」
「ストップ。一回落ち着け」
勝手に妄想の世界を広げていく深雪。この調子だとさらに変な誤解をされてしまう。
「退学になっただとか、お金なくなっただとか、そんなことはないから安心して」
でもまあ、安心できる話でもないけど。
友人が人生疲れたなんて言いだしたら、少しはね?
「嘘だよ、ジョークジョーク。……でも、結衣が言ったことは……?」
手をヒラヒラと振りながらこちらを見る深雪。
「あー……ジョークではない。ほんとに……疲れたな」
深雪の表情が見る見るうちに悲しそうなものへ変わっていく。
「えーっと……あー……なんかごめん」
「……うん……大丈夫……かな」
さっきまでの和やかな空気が一気に冷めた重いものとなってしまった。
「……」
「……」
そんな場の雰囲気に負け、私も深雪も口を噤んだ。
わずかな沈黙。
「……」
「……」
お互いに目を合わせようとはせず、下を向いたまま。
二人とも何も話そうとしなかった。
しかしその沈黙を破ったのは深雪だった。
「もし……本当にダメだったらいつでも相談してね。私は大丈夫だから。私は……友達を失うとか絶対嫌だから。ね……?」
「うん……」
私は静かに頷いた。
「死んじゃダメだよ?」
「わかってる。確かに疲れたけど、そう簡単に死ぬことはしないよ」
「そう」
人生疲れたとか、確かにさっき言ったけど死のうとは思わない。
自分の命は無駄にしない。
「大丈夫だよ。自殺は考えてないし。何か楽しめることでも見つけるよ」
「そう?本当にダメだよ?死んじゃ」
真剣な顔をじっと私の目を見つめる深雪。
私も見つめ返すと、深雪はフッと表情を緩めた。
「……よし、そろそろ戻ろうか?」
「ん、わかった」
再び笑顔が戻った彼女の顔だが、どこかいつもより憂いを帯びているように見えた。




