憧れは田舎暮らし
顔を上げるとその視線の先には、鉄筋コンクリート製のビルが天高く聳えていた。
そんなビルを一瞥して、
「来世はのんびり田舎暮らしがいいなぁ」
などと呟く私は、妃 結衣 19歳。
現役女子大生で日本の首都東京にて一人暮らし中。
19歳でもう来世のこと気にする女子大生は私くらいだろう。
目の前に広がる世界。キラキラと光るビルのネオンの元、眼下に見える道路で自動車が忙しなく往来する。空に浮かぶ星はなく、月には霞がかかっている。
田舎とは、かけ離れ過ぎた光景。
「やっぱり田舎がいいや」
豊かな自然に、綺麗な空気、夜になると空には無数の星々が浮かび、あたりに虫の声が響き渡る。
私が思うに田舎とはこんな感じのところ。
憧れの田舎。
でもどうせ私は大学を卒業したら、どこかの企業に就職して、結婚して、子供を産んで、年をとって死んで行くのだろう。
一生都会暮らしか。
そんな将来を想像した私は、
「田舎に住みたーい。家を建てて、畑も作って、なんなら村ごと創っちゃうか?」
ぶっ飛び発言。
流石に大卒の女子が一から村を作ったなんて聞いたことがない。
「村創りとは、無理か……」
諦めかけたその時
―村創り、するの?―
何処からか声が聞こえた。
「およ?誰だろう」
辺りを見回して見たが、横も後ろも、仕事帰りのサラリーマンだけ。目の前には二本のレールが敷かれており人がいるわけない。
いくら探しても声の主であろう女の子はいない。
「気のせいかな?疲れてるのか」
昨日はレポートを作るため、少し徹夜をしてしまった。
徹夜は禁物だな。
そう自分に言い聞かせポケットからスマホを取り出した。
―私と一緒に村を創ろう?―
今度ははっきり聞こえたぞ。しっかりと耳元で。
私はすぐさま周りを見て女の子を探す。
「いない……」
空耳か。そこまで私は疲れていたか。早めに帰って寝なければな。
『間も無く一番線に列車が参ります。黄色い線までおさがりください。この電車は――』
遠くの坂から、二つのライトを光らせ一生懸命登ってくる電車が見えた。
結局声の主のことはわからなかったが、ふと頭の中にさっきの声が浮かんだ。
―私と一緒に村を創ろう?―
「村創りか……いいかもな……」
そういう試みも面白そうだ。開拓者的な感じで、自分の好みに創っていく。
「自分好みの村か。そういうの憧れるな」
―それなら、創ろう?さあ、こっちに来て―
またか。さっきの女の子の声だ。今度は誘われたぞ、「こっちに来て」って。
確かに魅力的なお誘いだけれども……
「流石にそっちには行けないかな」
そう呟いた瞬間、私の背中に誰かがぶつかった。
「おっと……」
割と強めにぶつかられ、前に倒れてしまう。
手を突こうとしたのだが、私がいるのは列の先端であり、ホームの端。
当然目の前に手を突くところはない。
「うそ……」
目の前の迫る二本のレール
「きゃぁぁぁ!!」
誰かの甲高い声が駅構内に響き渡る。誰かが私の服の裾をつかんだ。が、するりと抜ける。
右手から迫る電車。
真っ直ぐ私に向かって来る。
「これは……ヤバイ……」
電車が体にあたる直前、周りの動きがスローになった。
「死ぬかな……」
そう呟いた瞬間、私の意識は遠のいて行った。