中々溜まらないもの
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妖光の館 - 1F
「さぁ、行っておいで」
私はそのままゴブリン人形を館に放ち、戦果を取ってくるのを待つことにしてみた。
急ぎの用はないし、どうせなら実戦であまり使えていない魔術やらを使ってみたいのだ。
現在いる階層は入ってすぐのため、ゲーム的にいうならば一番難度は低いはずだが、油断はできない。
既にゴブリンという元々いないはずのモンスターが出現している以上、イレギュラーはいつ起こってもおかしくはないからだ。
妖光の館は、外から見れば森にある少し不気味な館だが、中に入ってみると全く違う。
よくあるゲームのダンジョンを思い浮かべてもらえればいいだろうか。
所謂迷宮のような形になっているのだ。
基本的に移動するのは館の廊下を模した通路。
そこに点々と館内の部屋に入れる扉が存在する形だ。
そのため、一度迷ってしまうと出れる手段がない場合そのまま定期的に湧くモンスターにいずれ殺されてしまうことだろう。
私はといえば。
特に出るための手段を用意しているわけじゃない。
というのも、何も入口に戻ったり、アイテムや魔術で入口に戻るだけがダンジョンから出る手段ではないのだ。
ダンジョンには1つにつき1体のボスモンスターが存在する。
流石に以前戦ったレイドボスである館の主人のようなレベルのボスではないが、それでもソロ撃破となると、準備不足では瞬殺されるのがオチだ。
まぁ、そんなことにならないように努力はするつもりなのだが。
「傀儡魔術の習熟度上げもしないとなぁ。流石に感覚共有程度は使いたい」
ある程度使い続けていれば、すぐに習熟度ボーナスくらいは貰えるだろう。
……と、そういえば。
「【霧海】も結構使ってるのに、まだ派生魔術覚えられないのかな」
久々に習熟度を見るために【鑑定】を発動する。
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【固有魔術-霧海】
習熟度:1780(2000)
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「ん、中々溜まってるみたいだけど……これじゃもう少しかかりそうかな」
薄々わかっていたことだが、やはり一度派生魔術や習熟度ボーナスをもらったことのある魔術に関しては、習熟度が溜まりにくくなる傾向があるようだ。
【チャック】に関して言えば、あれは普段から外部インベントリとして使っていたのもあるために、少しずつではあるが習熟度が溜まっていたのだろう。
その点、【霧海】に関しては普段から使ってはいない。
考えてみれば、戦場などの戦う場でしかほぼ使っていないのだ。
「これからはある程度垂れ流しでもいいかもなぁ。……いや、でもそれだと前のPKサバトに襲撃されたときみたいになるのかな。それは嫌だなぁ」
まだシスイにすら着いていなかった時の事を思い出す。
当時はまだ碌に戦えるような魔術も戦術もなかった私だが、今は結構相性次第ではあるが戦えるようにはなったはずだ。
力が付いているのを実感できる、というのは中々に楽しいものだ。
「……おっと」
そんなことを考えながら歩いていると、通路の行き止まりへとたどり着いた。
左右には扉が一つずつ。
片方……左側は開いていて中を確認することができるが、右側の扉は開いていないために中が確認できない。
「左いったのはゴブリン人形だと思うから……そうだね、右にいこう」
一応、ゴブリン人形との魔術的な繋がりを確かめておく。
未だ魔力が削れていっている感覚があるために、まだゴブリン人形は活動しているようだ。
このままゴブリン人形と合流したところで、傀儡に指示を出しながらの戦闘に慣れているというわけではないため、逆に危険に陥る可能性がある。
それならば、右に行きモンスターがいるかどうかを探してしまったほうがいいだろう。
一応、手には護身石の短剣に加え、左腕に【魔力装】にて偽腕に疑似的な神経を通し動くようにはしておく。
戦闘に入るまでは最低限の魔力で作った神経で動かすため、動きも遅いし力もないが戦闘に入ればそれは別。
むしろ戦闘に入れば右手の短剣よりも分かりやすい凶器となる。
魔力の消費に目を瞑れば、だが。
「よし、行こう」
そして扉を開けた瞬間。
カチッという音と共に、ナイフとフォークが大量に正面から飛んでくる。
「【魔力装:丸盾】」
それを左腕を前に出し、神経の形にしていた【魔力装】を丸盾の形へ変化させ弾き返す。
これくらいのトラップは予想してある。
……ホント、咄嗟の判断で変化させられるのは強みだね【魔力装】。
【霧海】を侵入させ、作動しているトラップの位置を確かめる。
ちょうど真正面、時計らしきものから放たれ続けているようだ。
「よく弾尽きないなぁ……あぁ、もしかしてこれ【魔力装】みたいに魔力で作られたものだったりするのかね?」
【霧海】にて位置を確かめられたため、そのまま【爆裂槍】を【霧海】経由で時計らしきものへ射出し、爆破させてトラップとしての機能を停止させる。
後手に回ってしまっている感は否めないが、こういうトラップは確実に潰しておかないと、後々困るのは自分たちなのだ。
「よし、さすがにもう大丈夫かな?」
【魔力装】の丸盾を解除せず、構えたまま部屋へ再び入る。
なかなかに広く暖炉があることから、普通に人が住んでいた場合ここが寛ぎの場だったのだろうと予想できる。
真正面には私が壊した時計に加え、大き目の額縁が飾ってあったようだ。
【爆裂槍】のおかげでズタボロになっているため、回収するのも復元するのも難しそうだが。
「モンスターはいない、と」
一度休憩すべきだろう。
ダンジョン内で安全だとわかる場所で少なからず休んでおかないと、後々まで集中力が保たないだろうし。
【霧海】を展開したままに、私はそのまま床に座り込む。
椅子はあるが、ダンジョン内にあるもののため、最悪トラップの可能性もあるのだ。
ファンタジーでダンジョンに潜っている主人公たちは大変だな、と今更ながらに思ってしまった。




