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この殺伐とした魔術世界で  作者: 柿の種
番外2

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みうちのおてん

もしよかったら感想、ご指摘などよろしくお願いします


ヴェールズ首都シスイ - AM


「あぁ、クロエちゃんは大丈夫かなぁ」

「赤ずきんさん、それ今日5度目ですよ」

「いや、いやいやいや灰被りちゃんよ!心配するに決まってるじゃあないか!一度はうちのサバトメンバーだった彼女が、よりにもよってあのハロウの居るドミネへと行ってしまったんだよ!?」


ガビーロールと共に、彼女の偽腕の縫合に立ち会った日の翌日。

私は全く仕事が手につかないでいた。

……あぁ、やめてくれジーニー。こちらを見るな。


訂正しよう。

いつも私は全く仕事に手を付けていないが、今回は特に手がつかなかった。

クロエがドミネへと旅立ってしまったからだ。


彼女は最近見つけた新しいお気に入りの1人だったため、彼女1人で送り出すのは気が気でならないのだ。

実を言えば、数日私がステルス状態で後ろからついていこうかと思ったレベルで心配なのだ。

まぁそれもすぐに灰被りに見つかったおかげで、失敗に終わったことなのだが。


「そういえば、昔からの友人達は皆ハロウさんは危ないっていいますけど……なにが危ないんです?」

「……あぁそうか。君はうちら身内の中じゃ一番後に知り合ったからね、知らないのも無理はないか」


事務用の椅子の背もたれによっかかりながら、私は語り始める。


「まぁ、彼女は確かに普通に付き合う分には普通……いやむしろ親切だし、かなり良い部類の友人だろうね」

「そうですね。私もこの間ご飯ご馳走になりましたし」

「なにそれずるい、私も呼んでよ」

「赤ずきんさん失踪中の話なので」


あぁ、あったなぁ。

あの時は大変だった。流石に迷い込んだ神殿が天然のダンジョンになってるとは思わないよね。


「あの時かぁ、仕方ない。……と、まぁ良い奴なんだよ。だからこそ性質が悪い」

「それはどういう……」

「ハロウはさ、基本的に善人なんだ。正義側の味方なんだよ。悪いことは絶対に許さない正義の味方。アニメでいう熱血漢の主人公。最近は少なくなったけど、正義のために!とか言いながら悪人と戦う通りすがりのヒーロー気質なのさ、彼女は」


そう。

困っている人がいたら助ける、これはまだいい。

しかし、例えば明らかに警察に連絡したほうがいいであろう事件や事故までも、彼女のみの手で解決しようとしてしまう。


明らかに個人で解決できる範疇を超えている出来事を、彼女は個人で解決しようとしてしまう。

失敗するならば、まだ良いのだ。

しかし、彼女は成功させてしまう。成功させられるだけの力を持っている。


「だからこそ、彼女は身内の私達が抑えている、といったほうが正しいのかな?」

「……そうなんです?聞いた限りだと、そんな抑えられそうにもないと思うんですが」

「いやいや、結構これが大変なんだけど楽しいんだよ。今日は確かテセウスが行ってるんだっけな。リアルの方で彼女の家にお邪魔しているのさ」


そう言うと、灰被りは「それだけなのか?」という困惑した顔をこちらへと向けてくるが、これだけでいいのだ。


「あぁ、これで良い。何せ彼女は親切だからね。来客があったらそちらに付きっ切りになって、『正義のため』『困ってる人を救うため』なんて行動をとれないのさ」

「……もしかして、数日おきに赤ずきんさんがログインしないのって」

「あぁ、そうだよ。ハロウの家に行ってるからだね」


灰被りはやっと納得がいった、という顔をする。

クロエちゃんについていた時は手が離せなかったために、ガビーロールやレンに任せていたのだが最近はその身内内の取り決めに復帰している。


「まぁ、一応この話を聞いたってことをテセウスかレンちゃんに言えば、灰被りちゃんもローテーションの中に組み込まれると思うよ」

「少し興味があるので、あとで話しておきます」

「うん、それが良い。ハロウは性質が悪いだけで、おもてなしは本当に完璧だからね。彼女の作る手料理は美味いぜ?そこらの店より遥かに」

「行くしかないですね……」


灰被りは小さくガッツポーズをしてから、誰かへとメッセージを送っている。

おそらくテセウスだろう。

……灰被りちゃん、レンちゃんの事苦手っぽいし。


ハロウも性質が悪いが、レンも負けず劣らず性質が悪い。

彼女の場合、ハロウより分かりやすいから別に問題とはなっていないのだが。


「……灰被りちゃんってさぁ」

「?なんです?」

「なんでレンちゃん苦手なの?」

「いや、その。えっとぉ……」


とても言いにくそうな様子だ。

というかどんどん耳が赤くなっていくのが見てて面白い。

すごいなVR、赤面していく過程まできちんと再現されているのか。


「ほら、私の歓迎会みたいなの最初あったじゃないですか」

「あぁ、私が仕事で行けなかったやつ」

「その時にですね……その、キスされまして……」

「あぁー……」


レンならばやりかねない。

彼女はなんというか。パーソナルスペースが極端に狭いのだ。

外人よろしく会ったらハグしてキスは当たり前、その後ずっと抱き着いてくることもある。

この前など、1日ずっと真正面から抱き着いた状態を維持されたために、いろんなところが筋肉痛となっていた。


いやまぁ別に私は嫌ではないからいいのだけど。

一度拒否さえすれば、次からは普通の対応になるからまだハロウよりかは扱いやすい類と言える。


「いやほんと……近づいたらまたキスされるんじゃないかなって思ってしまって」

「あぁ、灰被りちゃん初心だもんねぇ」

「なっ……!そんなわけっ!」

「あっはっはは」


私は窓から空を見る。

今もどこかで、彼女はこの空を見上げているのだろうか。


赤ずきんも灰被りもテセウスもガビーロールも何かしらを抱えている、というのはおいておいて。

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