彼と私の決闘
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「【さぁ、最後の宴を始めましょう】」
私がその言葉を発した瞬間、私の代わりに猛威を振るっていたがしゃどくろが消え去り、私の中へと戻ってくる。
「おいおい何だぁ?諦めちまったのかよ!!」
「それはどうかしら」
「あ?……なんだ、それ」
派生魔術【バーバ・ヤーガ】。
発動中のがしゃどくろとは同じ名前でも、また違う派生魔術。
あちらが召喚系の魔術だとすれば、こちらは変容、変身の類の魔術だ。
元々召喚されているがしゃどくろ、現在HPの約半分をコストに、自らの身を骸骨の魔女へと変容させる魔術。
コストもコストだが、変容中の代償も重い。
約半身が骸骨へと変化するためか、デバフとして【欠損】が付いてしまう。
それも、手当しなければいずれ死んでしまうほどに重いデバフとして。
その分、魔女としての力は高くなる。
両手を広げ、身体の約半分が骨へ変わっていくのを感じる。
痛覚は切ってあるため問題はないが、何か削ぎ落とされていくような感覚がある。
「……それが本気か」
「今までも本気よ?これからも本気だけど」
そして変容は完了する。
今回は下半身が骨へと変わったようだ。
……足が骨になると動けなくなるのは仕方ないとして。
この姿になったのだ。
動く必要は、もうない。
「ははっ、良いだろう!良いだろう!!それならば俺も!応えねばならないだろう!!!」
「待つ気はないから、見せたいのなら頑張ってね?【蠱龍】射出」
私はいつも【蠱毒】に使う瓶を取り出し、別の魔術を行使する。
骸骨の魔女へ変容している最中は、全て名前も効果も変わってしまうためだ。
【蠱龍】。
【蠱毒】の蟲が、まるで龍のような形に変化し、それが襲いかかるようになった魔術。
イメージでの変化を加えている【犬神】とは何が違うのかといえば、簡単に言えば大きさが全く違うのだ。
【犬神】はよくて人の頭ほどの大きさしか無いが、【蠱龍】はといえば、成人男性の平均ほどの大きさがある。
……やっぱり、ブーストされちゃうか。仕方ないことなのは分かってるけれど。
グラサン刀男は、【蠱龍】を見て少しだけ驚愕していたが、すぐにニッと笑う。
「良いじゃあねぇか!【空は善有りて、悪は無し】」
彼は手に持つ魔術で創り出した刀を使い【蠱龍】を叩き切りながら、詠唱を開始する。
どこかで聞いたことのあるような文だが、まぁ良いだろう。今は関係ない。
私は手に骸骨のランタンを出現させ、炎を吐き出させる。
その炎も、いつものモノより大きく、そして熱量も高いようだった。
……残りのHPはまだ3分の1残ってる。まだ何本かアレが残ってたはずだから問題はないけれど……
私の吐き出した炎すらも叩き切り、彼は近付いてくる。
その距離、残り20メートルほどだろうか。
「【智は有なり】【理は有なり】」
私は杵を出現させ、それを【変異】により鎌のように加工した後に男へと投げつける。
炎、そして【蠱龍】もセットだ。
どうせ一つ一つ投げたところで、叩き切られるのだろう。ならば、叩き切れない量を相手にぶつければいいだけのこと。
しかし、彼は叩き切る。
いつのまにか出現させた2本目の刀を持ち、二刀流を使いこなしながら、叩き切るのだ。
「【道は有なり】【されど、其れ等総ては悪と成る】」
ならば、と【蠱龍】にある仕掛けを施してから複数射出する。
彼女……本当の名はクロエという女の子の使った魔術を参考にさせてもらうことにする。
【蠱龍】がグラサン男の刀に触れる瞬間に、起動文を発する。
「爆破」
呪いの塊である【蠱龍】が彼の近くで一斉に破裂し、そのまま内にある呪いをばら撒いた。
死の呪い。同族を喰らってまでも生き残ろうとするほどの強い生への執着心。それらが固まり混ざり、そして破裂したのだ。
「【ならば、我は其の悪を空の心を持って叩き斬ろう】……【二刀開眼】発動」
されど、彼は生き残る。
恐らく彼の隠し球である派生魔術すら使って、呪いの中からこちらへと進んでくる。
彼我の距離はもう10メートルもない。
ここまで来られれば、叩き切られるのだろう。
「いいじゃない、久々に切られるというのも悪くないわ」
「はは、諦めたのか?らしくもない」
「諦めたんじゃないわ。これはそう……勝利への布石って奴よ」
「はっ言うじゃないか。じゃあ死んでくれや」
目の前まで来た彼は、そのまま私を叩き切った。
みるみる減っていくHPを見ながら、私は思う。
……あぁ、やはりこのゲームは死んでなんぼだ。この感覚が毎度毎度堪らない。
強烈な喪失感と共に、体を動かそうにも私の腕は動かない。
目の前が徐々に暗くなっていく。
そして……。
「さて、と。これで俺の任務は終わりってわけか。……戦争中なんだし、周りのプレイヤー殺しても問題はねぇよ……な?」
「ちゃんと消えるのを確認してから、背中を向けた方がいいわよ?」
「ぐぁ……」
そして、私は生き返る。
背中を向けた彼の胸を短剣で貫きながら。
次回、いつも以上に説明回
特に最後のところ。




