彼らの理由は
もし良かったら感想、ご指摘などよろしくお願いします
現在、私はリセットボタンと共にカフェに居る。
ズズズ……と紅茶を啜りながらケーキを食べてはいるが、一応周囲に一目見ただけでは分からないほど薄く【霧海】を展開し、警戒はしている。
また、リセットボタンについては目を瞑り眠っているように見えるが、これはホムンクルスの視点を観るにあたり、自分自身が見ている視点とごっちゃになってしまうのを防ぐ為だ。
「どうです?見つかりました?」
「そんな早くは見つからないからちょっと待って」
現在リセットボタンは街中にネズミ型のホムンクルスを多数走らせ、何処から不死系モンスターが出現しているか、その近くには何があるかを記録している。
軽く魔力を感じることから、記録自体は自動筆記か何かの魔術を使っているのだろう。
便利そうだし私も欲しい。
「早いって言っても……」
「まぁ、さっきプレイヤー向けの公式発表が出たから焦るのは分かるけど、落ち着きなよ?クロエさん。焦っても私のホムンクルスは相手を見つけることは出来ないし」
「うぅ……私にもっと的確な索敵が出来る魔術があれば……」
そう、先程運営から現在レギンにいるプレイヤーに対しての連絡が来たのだ。
内容としては、かなり簡単なものではあったのだが。
『現在現時刻をもって、【ファルシ】より【ドミネ】に向けて宣戦布告が宣言されました。
これにより、第一次戦争イベントを開催します。
イベント対象者は、現在【ファルシ】又は【ドミネ】に所属あるいは滞在している全プレイヤーとなります。
。 【ファルシ】所属で現在【ドミネ】に滞在している、もしくはその逆の場合、所属先国家が優先されますのでご注意ください』
と言ったものだ。
リセットボタンに聞いてみると、これはイベントとしては初の国家間戦争であるらしい。
勝敗の決め方は様々な種類が記されていたが、分かりやすいものは2つ。
相手の国のトップを殺すか、主要施設の過半数制圧だ。
前者は分かりやすくトップが死ねば、そのまま下も崩れていくためだろう。
後者においては、主要施設……生産施設やらが止まってしまえば国としての機能が止まり、国としての死が待つからではないだろうか。
そして、現在レギンを襲撃している不死系モンスターとその術者は、この宣戦布告に関係しているのだろうと私とリセットボタンは考えている。
そりゃあそうだ。タイミングが良すぎる。
宣戦布告する前に襲撃を始めている点については、……まぁ襲撃を依頼されたプレイヤー側の性格のせいだろう。
それらを踏まえた上で、今回の襲撃について考えてみると、相手の狙いが何かは分かる。
「主要施設の制圧、かぁ」
「まぁドミネ……というよりはレギンには分かりやすい国の象徴が有るわけだし、襲撃者はそこ狙うよ、やっぱり」
そう、主要施設……今回でいえばレギンにあるコロッセウムの破壊もしくは機能停止が目的だろう。
それが分かったからか、外のドミネ側のプレイヤーはコロッセウムへと向かっているし、潜り込んでいたファルシ側プレイヤーは、それを邪魔するように動いている。
「リセットボタンさんは、今回のメインの襲撃者に心当たりってあります?」
「不死系を作り出してるプレイヤーですよね。もちろん知ってますよ」
「……どんな手合いで?」
そう聞くと、彼女は少し困ったように唸りながら教えてくれる。
「んんー……。彼、というか彼らはファルシ所属の死霊術師の中でも、結構有名な部類だね」
「……彼ら?」
「そう、彼ら。グリムとハンスっていうプレイヤー。一部からは【童話の人物】とも呼ばれているはずだね」
その通り名を聞いて、知り合いの顔が浮かんだがまぁ関係はないだろう。
……関係がないと、いいのだが。
「彼らの得意な魔術は、現在のように分かりやすいものだよ」
「不死系モンスターの大量召喚って事ですか……」
「そそ、一度見たことはあるけど実際喰らう側になると危機感が全く違うかなぁ」
そりゃそうだろう。
何せ現在外側からじわじわとだが、B級ホラーのように動死体なんかが迫って来ているのだ。
これで危機感を覚えない方が少しおかしい。
「おっと、それっぽいポイントまた発見。これで5箇所目かな?」
「よし、じゃあそろそろ襲撃し返しますか。……ちなみにポイントの位置関係は?」
「それぞれ五芒星の頂点になる位置にあるかな。……魔術的な意味を組んでそうで少し不安にはなるけど」
「今更です。私はここから近くのポイントに向かうんで、リセットボタンさんは別のポイントに」
リセットボタンとは違い、私は便利な足となる魔術を持ってはいないため、近場から攻めるしかないのだ。
【チャック】に関しては移動手段というよりかは、緊急脱出口のようなものだし。
「はいはい、足の関係だよね。じゃあグリムとハンスがいた場合はどうする?」
「私にホムンクルスを一体付けておけばいいんじゃないです?感覚共有で連絡できますよね?」
「そうだねー……っとじゃあ猫型にしておこう」
そう言うと、彼女はすぐに猫型のホムンクルスを生み出し私の肩に登るよう指示する。
これでリセットボタンが見つけた場合は分かるだろう。
「私の方が見つけたらホムンクルスの頭叩くんで、衝撃に関する感覚共有だけはしといて下さい」
「はいはいっと、じゃあ行きますか」
カフェから出て、街へと繰り出す。
片方は霧を纏い、もう片方は異形のモノ達を連れて。




