はじまり
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ドミネ首都レギン - AM
ログイン後、私は【チャック】を宿の部屋に設置した後、近くのギアスの森へ行くべく、街の入り口の門まで来ていた。
ヴェールズの時とは違い、一時的に外へ出るだけでも外出内容を門の見張りをしているNPCへ報告しなければならないらしい。
朝だというのに、結構な数の人が並んでいる。
……一応、プレイヤーもいるっぽいけど大半はNPCかなこれ。
プレイヤーとNPCの違いは、見ればわかる……といえばいいだろうか。
基本的に、プレイヤーは何かしらの武器や防具を日頃から身に着けている。
そのため、NPCとは違う空気を纏っているように見えるのだ。
……まぁ、人混みに紛れてしまえばそんな空気なんて霧散しちゃうんだけど。
「と、次かな」
前の人が門番のいる複数ある小屋の中へと入っていく。
一応、相手のプライバシーを守るため、という建前で受け付けをする門番一人につき一つの受付用の小屋が門の周囲には建っているのだ。
今入っていった彼は商人のような恰好をしていたため、行商人か何かだろうか。
『なっ……ふざけないでくれ!!』
「ん?」
と、その商人が入っていった小屋から焦ったような声が聞こえてくる。
何かあったのだろうか。
【霧海】を使って小屋の中の様子を確かめようかと思ったがやめておく。
先ほども言った通り、ここには他にプレイヤーもいるのだ。
こんな朝から外に出ようと、きちんと並んでいる時点でPVE……モンスター戦闘専門か、コロッセウム参加者だろう。
そんな人らが周りにいる状態で、固有魔術を使うなんて正直得策ではないだろう。
私はコロッセウムに参加する予定があるのだ。
ここで手の内を晒すのは嫌だ。だから、声のことは気にしないことにする。
「何かあったんですか?」
と、そんな私に後ろにいた人が私に聞いてきた。
「いや、なんか小屋の中で争ってるみたいで」
「へぇ、変なものでも持ってたんですかね?」
「そうなんじゃないですかねぇ……」
まぁ一応世間話のようなものだろう。
答えておいてメリットはないが、デメリットもない内容だろう。
……人との関わりで損得を考えるのって、どうなんだろうなぁ。
しかし、遅い。
さっきから見ている限りだと、入ってから1~2分あればすぐに人が小屋から出てきていたのだ。
されど、5分ほど経っても商人の彼は中から出てこない。
「……流石に遅い」
せっかちかと思われるかもしれないが、私の後ろに並んでいる人たちが苛立ち始めているのもわかるのだ。
先ほどから舌打ちなどが聞こえてきている。
……しょうがない、見に行くか。
小屋に向かって歩き出す。
中からは声が聞こえてきていないが、どうしたのだろうか。
少しだけ、用心はしておこう。
ガチャ、とドアノブを回しながら扉を開く。
すると。
「……た、たすけ……っ!」
「ハァァァァァアアァァ……」
中は予想だにしていない状況となっていた。
木製の小屋が、真っ赤な……いや、赤いというよりは、紅いペンキで乱雑に塗り広げられたかのように模様替えされている。
その中心には、こちらに力なく手を伸ばす商人風の男と、その男に食らいついている門番の姿があった。
むわぁ……と漂ってきた濃い鉄の臭いに、それが血だと認識させられる。
「……【霧海】ッ」
……呆けている場合か!阿呆が!
確実に敵、モンスターの類だろう。周りにプレイヤーがいる?関係ないだろう。
今は緊急事態だ。
【霧海】によって目の前のモンスターの動きを捉えていると、周りの小屋でも悲鳴が上がり始める。
私は目の前の小屋から目を離さないように、後ろへと下がっていく。
一応そのまま霧を発生させたまま、だが。
「何があった!!」
「モンスターです、小屋の中に。門番の姿をしてますけど」
「何……?」
悲鳴を聞きつけ、駆けつけてきた正義感の強いプレイヤーに対し今の状況を端的に伝える。
彼はそのまま腰の剣を抜きながら小屋へと入っていく。
「これは……まずい、ちょっと君!掲示板確認してもらってもいいか!」
「えっ、あっはい!」
小屋に入っていったプレイヤーは、他の小屋まで来ていたプレイヤーに対し焦ったように掲示板を開くように言う。
私も周囲に関しては【霧海】の感知によって把握できているため、掲示板を開く。
いや、開こうとする。
「……開けない」
そう、開けないのだ。
フレンドチャットはどうだろうか、と思い数少ないフレンドに片っ端からチャットを送ろうとしてみても、そもそもメッセージを送る前にエラーが起きてしまう。
今も小屋の方で出現したモンスターを制圧しているプレイヤー以外はそのことに気付いたようで、動揺が広がっていく。
NPCたちも、何が起きているかはわからないがよくないことだ、と分かるようで少しざわつき始めている。
「みな、聞いてくれ!」
と、私の居た小屋に入っていったプレイヤーが声を張り上げて周囲に聞こえるように言う。
よくよく見てみれば、かなりがっしりした身体をしている。ここが魔術師しか職がない世界じゃなかったら、剣士だと言われても違和感がない。
「これはイベントではない!他国からの襲撃だ!いいか、もう一度言う!襲撃だ!」
「なっ……」
襲撃……?この何もないタイミングで?
いや、私が知らないだけで何かがあったのかもしれない。
そのプレイヤーは話を続ける。
「中に居たモンスターは、モンスターであってそうじゃあない!死肉食いだ!……プレイヤー産のな!」
死肉食い。
確かリアルで調べた情報だと、墓地などにはよく出現するモンスターだったか。
他の場所では出現せず、墓地以外で見かけた場合は近くに死霊術師がいると思え、と言われる程度の。
……そういえば。リックたちはこの国じゃ禁術指定されてるものがあるとか言ってたっけ。
ドミネについた日、教えてもらった話の中の一つだ。
その禁術を持っているだけで、この国では監視がつくとかなんとか。
その禁術リストの中には、確か……死霊術も入っていたはず。
なるほど、それで襲撃か。
「すこし面倒なことになってきてる気がするなぁ……」
ドンドン野次馬のプレイヤーが増えるなか、私はそう嘆息した。




