彼女の使うモノ
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偽名。
一番最初にシロ、という名前を使ったときは、得体の知れなかったレンというプレイヤーに対して本当のアバターネームを名乗るのを躊躇ったからだ。
ほかにも、その時調べたことだが、アバターネームを知ることでかけることのできる呪術なんかもある。
正直な話、自衛のための手段の一つだった。
だから列車の中で出会ったハロウに対しては偽名であるシロを教えたし、列車内での彼女の戦闘スタイルを見て、偽名を伝えておいて正解だったとも思ったのだ。
……だって彼女、明らかに呪術メインの戦闘スタイルだからね。
しかし、リセットボタンに対しては名前を教える以前の話だった。
グリルクロスと共に、現在の私の装備を手掛けた一人であり、そもそも私からではなくグリルクロスから名前を伝えられていた。
という話をハロウにした所、ひとまず納得はしてくれたようだった。
「と、私の話はいいんです。試合はどうなってます?」
「あぁ、今追いつめてる所よ。私が呪術を使い、相手さんにこちらへ攻めてこられないようにコントロールしてるから」
「へぇ……呪術って覚えられたりできるんです?」
「んー、私の場合はクラスチェンジでの報酬で出てきたから……一応そういう魔術に長けているのは森精族だったかしら。リセットボタンさんは何か知ってる?」
話を振られると思っていなかったのか、リセットボタンは見たことがないほど取り乱してしまっている。
これはこれで面白いかもしれない。
他では殺しあうことになるであろう彼女だが、こういう反応はある意味で襲われた時のネタになるかもしれない。スクショしておこう。
「へぁっ?!え、えぇっとそうですね!!確かファルシに呪術を教えているNPCがいたような」
「ファルシ……あのよくファンタジーであるようなエルフの集落みたいなところなんでしたっけ」
「そうね、私もあまりドミネから離れてないから詳しくは知らないのだけど」
呪術。
ハロウがよく使う補助系に分類される魔術だが、他の補助系とは毛色が違う。
何より、こちらはほかの補助系の魔術と違い、基本的には敵にかけるタイプの補助だ。
彼女の使った【蠱毒】然り、【犬神】然り。
呪術使いというのは特殊な立ち回りを要求される、とのこと。
「まぁ特殊って言っても、他の近接戦闘系の魔術師とあまり変わらないの。補助系の魔術師としては特殊ってだけね」
「ふむ、呪術の射程的な問題です?」
「そうね。例えば【蠱毒】なんかは、私が投げた瓶から30m以内の魔術師にしか効果がないの。だからこそ室内戦では多用するんだけど……」
「今回のようなコロッセウムの決闘ではあまり使えない、と」
「そういうこと。まぁ無理やりに使えるようにしたのが【犬神】なんだけどね」
【犬神】。先ほどから試合でも使っている【蠱毒】の改変、拡張版だ。
イメージとしては私の【爆破槍】や【分裂槍】なんかと同じようなものだろう。
【蠱毒】は発動した段階では、周囲に強力な毒を持った蟲が大量に沸き魔術師を襲いかかるというものだ。
それに指向性を加えたのが、【犬神】なのだろう。
他の魔術も使っているだろうが、【蠱毒】の蟲達をそこに留めさせるのではなく、ターゲットを追尾し攻撃させる……というものだ。
「意図的に外すことで牽制できるように、ってことで今はその場の思い付きで新しい改変加えちゃってるんだけどね」
「その操作でよくやりますねぇ……」
「そう?慣れると楽しいわよ。これも」
涼しい顔してなんてさらりと言うが、こちらからしてみれば三人同時に操っている時点で私には少し厳しそうな気がする。
本人が言う通り慣れればできるようにはなるのだろうが。
「あっ、詠唱終わったわね」
「あの時のアレです?」
「そそ、あれの詳細は流石に商売品だから勘弁してほしいのだけど……そうね。相手もとっておき出してくるみたい」
見れば、コロッセウムにて戦っているハロウの近くには、列車でみたがしゃどくろが。
対する相手のほうはといえば、何やら巨大な銃を取り出して構えている。
そして、がしゃどくろが動くのと同時に、その銃で一発。
……何か、怪獣映画を見ている気分だ。
「むむ、危ないわねあの銃。対魔系の銃弾込められてるっぽい」
「がしゃどくろって対魔喰らうとどうなるんです?」
「耐えはするけど、強くはないわね。おそらくあれくらいだったら……3発が限界かな?」
対魔術。
私としては、記憶の中にあるのはレイドボスであった館の支配者の装甲があげられるだろう。
魔術に対して効果を示し、魔術に有利をとるための性質。
しかし、それだけ使っていればプレイヤーとの戦闘で勝てるというわけではない。
私がやったように、近接武器に攻撃されてしまえばそのまま通ってしまうし、ほかにもその対魔術の部分だけ狙わずにほかのところを狙えばいいだけのこと。
「撃ち出してくるって考えると、厄介ですね……」
「うん、でもなんとかはなるかな」
コロッセウムの方のハロウが動き出す。
瓶を複数取り出し、それを相手のほうへと投げつける。
すると、そこからはいままで見てきた倍の数の【犬神】が出現した。
その数およそ20。
……うわぁ、物量で潰すつもりか。
明らかに悪者にしか見えないハロウが動くのに合わせるように、【犬神】とがしゃどくろは動き出す。
幾ら対魔術の弾を撃ち出せる銃があるといっても、3発しかないのなら話は別だ。
相手は焦ったように、一発ハロウに向けて銃を撃つが、焦りすぎて明後日の方向へと飛んで行っている。
そしてそのまま【犬神】が相手へとたどり着く。
……あれ全部無数の蟲の集合体って考えると、ちょっと相手さんがかわいそうになってくるね。
こうして、相手は蟲に体を食われ消えていった。




