新しいもの、変わったもの
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始まりの森 - PM
赤ずきんと別れたあと、少しまた同じ場所で待ち伏せをしてみようと思って隠れていたが、兎一匹現れなかったため、まだ行ったことのないほうへ移動している。
手には作った木製の短剣と一緒に、槍や槌を作るための練習用の材木をもっている。
『錬成魔術の習熟度が1000になりました。新たに【範囲変異】を取得しました』
「おっ、新しい魔術だ」
先ほどから【変異】させる時に声に出さず、思考にて魔術を発動させる練習をしながらやっていたからだろうか。もう少しかかると思っていた習熟度1000を割とすぐに達成してしまった。
「さぁーて、どんな魔術かなーっと」
思考発動にてステータス画面の魔術に対し、【鑑定】を発動させてみる。長時間ログインしているためある程度慣れたようで、【鑑定】と通常の【変異】ならある程度の成功率で発動するようになっていた。
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【錬成-範囲変異】
指定した範囲の指定したモノを変異させる。
変異できる範囲、数は習熟度などによる。
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「んん…モンスターハウスに遭った時の解体用かなこれ」
最初のイメージはそんな感じ。
でも、他にもできることはありそうな感じもする。
例えばそう。【武器創造】なんかを応用して、相手の足元から槍をたくさん突き出したり。
「でもそれをやるにはこっちでもできるようにならないとかぁ…ちょっと今のままじゃあつらいかなぁ…」
とそこまでつぶやいてから、あることを思い出す。
MMORPGならならではの、クラスチェンジを行っていないじゃないか。
「ステータスオープン」
私がそうつぶやくと、目の前に一枚のステータスのかかれたログが出てくる。
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Name:クロエ Level:4
クラス:魔術師
錬成魔術:1000(1500)
鑑定魔術:320(500)
固有魔術:230(500)
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なんとも簡易的なステータスだが、これはPKがいつみてるかわからないため、運営側が決めた表示内容だ。
もっと詳細の載った自分のステータスがほしい場合は、街にある教会へ行けばいい。
「レベル4のクラスは初期のままってところかな、予想外にレベルが上がってるのに驚きだけど」
正直な話、モンスターを倒したのはまだ一回…アースラビットのみのため、戦闘のみでレベルが上がっているとは到底思えなかった。
魔術の行使でも上がっているということだろうか。
「そうだ、クラスチェンジ。どうやってするんだろ…街の教会かな?」
詳細ステータスも貰えるし、と小さくつぶやいた時。それは聞こえてきた。
「Grr…Grr……」
「なっ…」
私の前方に、こちらを見て低く呻きを上げる狼人間のようなモンスターがいるのを。
お互いの距離はおよそ5m程度。狼ならばすぐにこちらにとびかかってこれる程の至近距離だ。
なぜここまで近くにいて気づかなかったのか、それが気になったがそれを一旦頭の中から排除する。戦闘開始だ。
「【鑑定】発動!」
「GAAAAAAA!!!!」
左に飛びつつ、狼人間に【鑑定】を使う…と同時に狼人間は私が居た場所へと飛び込んできた。
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【変異】ワーウルフ
【鑑定】習熟度が足りないため情報閲覧ができません。
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(ワーウルフ、それも変異体!)
モンスターの中には、変異体と呼ばれる者たちがいる。
それらは元になったモンスターの特徴とはまた別に、能力を持つことがある。
例えば…あるイノシシ型のモンスターはその巨躯に炎と氷を纏うことが可能となったり。
例えば…あるホムンクルスはその身体を無数に分裂、複製できるようになったり。
例えば…ある兎型のモンスターは山よりも巨大になり、砂の粒よりも小さくなったりなど。
多種多様な、言うなればプレイヤーの固有魔術のように様々な能力を持つ。
そして今回出会ったワーウルフが何の能力を持つかといえば。
「消えた……!?」
ワーウルフが私の目の前からすぅと空気に溶けるように消えていく。まるで初めからそこにいなかったかのように。
(これはまずい!)
今まで目の前で、こちらを襲ってきた敵が一発避けられたくらいで逃げるはずもない。
「チッ!」
あてずっぽうでまた左へ飛ぶ。すると、元いた場所へ狼の爪痕が残され、すぅとワーウルフが出現する。
「攻撃一発限りの透明化って所かな。初心者がいるフィールドに出てくる敵じゃあないよねぇ」
ここまでまぐれで二回ほど攻撃を避けてはいるが、あくまで幸運が重なっただけの事。
この後もそれが続くとは限らない。
「できる限り戦ってみようかなっと!」
手に持っていた短剣を投げる。木製のため刺さらないが、ダメージは与えられるだろう。
その間に、近くの木に触れ槍を作るために声を上げる。
「【錬成-変異-武器創造・槍】発動!」
イチかバチかだったが、納得いく出来の木製の槍ができる。
これである程度戦えるだろう。
「さぁこい!」
「GRRRRAAAAAAA!!!!!」
こうして、私の少し長いVR世界での午後が始まりを告げた。