私の考え、彼女の策
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考える、と言っても私と現在戦っている二人とは実力が離れすぎているために、まともな策が思いつかない。
後ろから攻めようにも、私の【五里霧】はステルス……認識されなくなるだけで、当たり判定はそのままのため、馬鹿正直に男の背後に近づいただけでは逆に私が殺されてしまう可能性がある。
私の現状使える魔術を思い出してみよう。
不意打ちに使うのならば便利な魔術は多いのだが、今回のような相手では不意打ち対策をきちんとしていることだろう。
じゃあどうするか。
「まぁ、不意打ちだよね。それしかないし」
実際、それしか手がない。
ハロウが男相手に時間稼ぎをしてくれているのは、私の実力的な意味もあるが、恐らくこういう場合の戦闘にも慣れておくべきと考えてのことなのだろう。
ならば、自分の使える手をできるだけ最大限上手く使ってダメージを与えよう。
……出来れば、そのまま殺してしまいたいが。
使う魔術を決めていこう。
近づけないならば、近づかないで攻撃をすればいい。
【変異】を使い、槍を出現させて攻撃。これが一番だろう。
ならば、そこに変化を加えていくべきだろう。
どうやって変化を加えるか。魔術を使う際イメージによりある程度形を変えるのは常とう手段となっているが、今回は他の魔術と組み合わせていく形にしよう。
【怒煙】は使うべきだろう。
相手の動きを止めてしまえば、ハロウがそのままトドメを刺すことが可能。
ならば他に組み合わせるべき魔術は?
……【過ぎた薬は猛毒に】を組み合わせてみよう。
弱い毒しか現状作れないが、現状私が持つ魔術の中で簡単にデバフを与えられるものだ。
使わない手はない。
「じゃ、始めますか……【大罪-怒煙】プラス【過ぎた薬は猛毒に-弱毒精製】プラス【錬成-変異-仮名・爆破槍】射出準備」
イメージしやすくするために、発声発動にて魔術を準備する。
すぐには発動させずに一旦発動保留させて、チャンスが来るのをひたすらに待つ。
また、同じものを追加で4つセットしておく。
ちら、と戦闘している方を見てみる。
より激しさが増した戦いは、ほぼ互角のようにしか私には見えない。
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-ハロウ視点-
こちらへと飛んでくる刀数本を、杵を使い撃ち落とす。
「そろそろ疲れてきたんじゃない?」
「あは、そんなわけないだろ!!ほら、刀追加だ!」
男の言葉と共に、男の周囲に刀が8本浮いた状態で出現する。
彼自身が使う武器にもなるし、飛び道具としても使える刀は正直面倒だ。
……全力で、といった手前他の魔術も使ったほうがいいわよね
手を抜いているわけではないが、今のところ使っている魔術は呪術と、固有魔術である【湖に住む人食い婆さん】の髑髏から炎を出す派生魔術【死の洋灯】の2種類だけだ。
【湖に住む人食い婆さん】は、プレイヤー間で言われている4種類の中の特殊型に該当する……とは思う。
何せ、派生魔術が豊富というレベルではないのだ。
現在【死の洋灯】以外にあと10種ほど派生魔術が存在する。
これがどれくらい多いか。
普通、固有魔術のレベルは最大で5までしか上がらない。
たまに例外もあるが、それはそれだ。
そして派生魔術は、1レベ上がるごとに1つずつ追加されていくものとなる。
現在、私の使っている【湖に住む人食い婆さん】のレベルは3。
途中から習熟度が上がりにくくなったために、長くやっているのに最大レベルではないが、その分ほかの固有魔術よりも派生魔術の数が多いために、様々な戦術を立てることが可能となっている。
「このままじゃ流石にどっちも疲れちゃうから、もう2つ追加していくわ。……ついてきなさいね?」
「おいおい馬鹿いうんじゃねぇ!今でさえ互角なのにまぁだ俺のことを嘗めて、」
「【二つ。彼らに話しかけた声は次第に増えていく】【視ると老婆の身体が三つへと増えていくではないか】」
杵を男へ向けながら、私はそう宣言する。
【湖に住む人食い婆さん】の派生魔術の発動方法は特殊で、その戦闘で一番最初に行使する場合に限り、この長い詠唱を発声する必要がある。
「なっ……!?お前、身体が……」
「「「ふふ、できればこれは使いたくないの。操作が難しいのよ」」」
今回発動させた派生魔術は【頼るならば三人に】というものだ。
これは単純に、自身を三人へと分裂させるだけのもの。
おそらくだが、【湖に住む人食い婆さん】の元ネタであるバーバ・ヤーガの登場する作品の中に、三人のバーバ・ヤーガに助けられるものも存在するため、それが影響したのではないだろうか。
……でもこれ、本当にゲームでよかった。こんな操作とかシステムの補助なしでやるとか考えられないしね。
現在、私の視点はFPSからTPSへと変化している。
自分のアバターを上から見下ろすように、それぞれに命令を出し行動させる形、といえばいいだろうか。
この操作方法では今までのような激しい動きはしにくいが、この派生魔術を使った状態であのような動きをする必要はない。
何故か。答えは簡単だ。
『一番、結界魔術を使用しこちら全体を防御。使用魔力は制限なし』
『二番、派生魔術【死の洋灯】にて対象を牽制。全体の魔力が少なくなってきた時点でアイテムから回復。使用魔力は制限なし』
『三番、派生魔術【バーバ・ヤーガ】の詠唱を開始。詠唱完了後即時発動。使用魔力は制限なし』
今まで、激しく動き攻撃をよけていたのは、結界魔術が使えなかったからではない。
魔力残量を気にして、防御側に魔力を回すくらいならば攻撃したほうがいいと考えていたからだ。
現在は、というと。
一番と呼ばれた私が先頭に立ち、結界魔術を多重展開しながら飛んでくる刀や突っ込んでくる男に対応。
二番と呼ばれた私が中間に立ち、髑髏のランタンから炎を吐きつつインベントリからMPポーションを取り出し、魔力回復。
そして三番目の私が一番後ろに立ち、切り札を用意している。
簡単にいえば、これは役割分担だ。
今まで一人でしていた、防御行動、攻撃行動を3つのユニットにそれぞれ振り分け、指示しただけのこと。
但し、地味に強い。
「くっ……」
「ふふ、そこも結界おいてあるから動けないね?」
「止まってていいのかな?ほらほら、髑髏さんは休んでくれないよ?死人だからね」
「……【彼女は言いました。彼の者は鶏の足の上に建つ小屋に住むと】」
考えてみてほしい。
自分と互角だった相手が、突然3人に増えるのだ。
しかも、今まで以上に厄介になった状態で。
男の顔には焦りが浮かんでいる。
おそらく、このままでは競り負けるというのがわかっているのだ。……それに、三番が準備している派生魔術は、私の通り名である『決闘王者』『一本足の人食い婆さん』を知っているのなら詠唱文も聞いたことがあるだろう。
しかし私の方も余裕はない。
そも、この【頼るならば三人に】は単純に増えるだけの派生魔術だが、継続して消費していく魔力は他の魔術よりも多い。
……というか、そもそもだ。そんな状態でほかの魔術も使っている私のような状態は、回復させるのを忘れた瞬間にすぐに魔力切れとなる……いわば背水の陣のようなものだ。
『どちらにしても……』
ちら、と先ほどから静かな相方のほうを見る。
『貴女に私はかけるわ。その方が楽しそうだしね』
ハロウは、楽しそうにそう呟くのだった。




