任せ任され進んでいく
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休憩もほどほどに、私たちは進んでいく。
正直今まで倒した2チームは、おそらくそこまで強くはなかったのだろう。
しかし、これからは流石に違う。
奇襲対策はしっかりされているだろうし、私の【五里霧】のようなステルスも見破られてしまうと考えたほうがいいだろう。
「さて、と。ここからは私がメインで戦ったほうが良さそう?」
「出来ればお願いしたいですね」
「了解、じゃあ私もそれ用にクラスチェンジをしましょうか」
いつか見たクリスタルをハロウは取り出す。
「【クラスチェンジ-高位呪魔女】」
パァとハロウの身体が光り、クラスが変わったようだ。……いや、変わった。
見れば、というか【霧海】で感知できる魔力の濃さが変わったのがよくわかる。
これが本来のハロウの使っているクラスなのだろう。
「あんまりパワープレイは好きではないのだけど……今回は仕方なしということで。シロさんは私の戦闘とかを観察して学んでね」
「了解でっす、勉強できる所は勝手に勉強します」
正直、今まで会った上級者はあまり私の戦闘スタイルとは合わず、使う魔術などからアイディアを盗むくらいしかなかった。
しかし、ハロウは使う魔術的に参考になる部分が多そうだと思ったのだ。
呪術とかそういうの。
「索敵は任せるね。流石に全部やっちゃうと勉強にすらならないから」
「……それが言えるくらいには差があるんですねぇ」
「ふふ、それはそうじゃない?まだシロさんは戦闘に関しては初心者の域を出ないんだから」
まぁそれもそうだろう。
いくらレイドボスを倒せたとしても、迫りくるプレイヤーを倒せたとしても、あくまでそれはビギナーズラック。
まだまだ初心者なのだ。私は。
上級者におんぶに抱っこ?結構結構。
私は物語の主人公ではない。チート能力があるわけじゃあないし、現実で何かしらの武術を収めているわけでもない。
ならば、だ。その主人公に近づくために私は出来るだけ、周りの人間から学んでいく必要がある。
「ですね。じゃあ行きましょうか。感知範囲全力で広げてみるんで、それにつられて何人かきそうですけど」
「うん、それで良いわ」
了承を得たため、そのまま【霧海】を全力で展開する。
濃い霧が周囲に展開されるが、すぐに前後の車両に向けて移動させる。
ある程度すればプレイヤーが感知されるだろう。
「さっきから思ってたけどそれ結構面白いね。固有魔術?」
「えぇ。だからって殺そうとしないでくださいね?一瞬で殺されそうだし」
「ふふ、面白いからってほしいとは思わないよ。使い勝手は悪そうだしね?」
「まぁ、目立ちますからね。……っと、よし。感知に引っかかりましたよ」
3車両ほど前に2人プレイヤーがいるのを感知できた。
と、私のほうも【霧海】から逆探知されこちらの位置がばれてしまったようだ。
迷いなくこちらへと向かってきている。
「2人。3車両前から来てます」
「了解了解。さっき固有魔術かどうか失礼なこと聞いちゃったから、私も一つ見せてあげるわ。【湖に住む人食い婆さん】」
彼女がそう宣言すると、彼女の右手に杵が、左手には髑髏を象ったランタンが出現する。
「それは…?」
「まぁまぁ。見てて。……【一つ。命の灯を燃やしましょう。】【髑髏のランタンよ、迫る悪意を焼き払いたまえ】」
彼女は髑髏のランタンを前へ突き出しそう言う。
するとどうだろうか。
中に灯っていた炎が、まるで髑髏の口から吹き出るようにして前方車両のほうへと飛んでゆく。
「これは私の固有魔術の派生魔術ね。大体の位置さえ分かってれば追尾してくれる地獄の炎よ」
「なんだか中二っぽくてかっこいいですね」
「やめてよ、少し恥ずかしいんだから」
少しだけ顔を赤らめながら、ハロウはそう言う。
しかし、はて?【湖に住む人食い婆さん】という固有魔術は知らないが、その名前はどこかで聞いたことがある。
最近聞いた単語だったはずだが……。
「あっ……『一本足の人食い婆さん』」
「あれ?私その名前シロさんに教えたっけ?」
「いえ……知り合いが言っていた話の中に出てきたのを思い出したんですよ」
そう、赤ずきんが言っていた。気を付けるべき対象が、確かそんな名前だったはず。
どこが見た目で分かりやすいだ、過去の自分!
まったくそんなことないじゃあないか。
「ハロウさんの通り名とかそんな感じのやつなんです?」
「なんというか、私が普通に戦っていたら付いていた名前……かな?そんな私婆さんって呼ばれるような歳じゃあないのに失礼だわ」
「ははは……」
VRといえど、ネットゲーム。
年齢を偽ろうとすれば幾らでも偽れるために、そういう話題はあまり触れたくはない。
というか、もう一つ。気になる点がある。
決闘王者の戦闘スタイルの特徴の一つに、確か骸骨モチーフのランタンを持っているとかなんとか、ハロウ自身が言っていたのではなかったか?
「……あのー、ハロウさん?」
「ふふ、なぁに?シロさん」
「……決闘王者、ですよね?貴女」
「ふふ、そうね。巷ではそう呼ばれてるわね。私」
ガクリ、と肩を落とす。
嘘を吐かれるのは別にいいのだ、気にしない。というか彼女は別に嘘は吐いていないし。
気づこうと思っても情報が少なかったのはある、あるのだが……。
はぁ、と一つ大きな溜息をつく。
「あら。溜息をつくと幸せ逃げちゃうわよ?」
「はは、ある意味今の状況が幸せなので大丈夫ですよ……」
「そう?」




