イベント開始、列車にて
もしよかったら感想やご指摘などよろしくおねがいします
ドミネ行魔導蒸気列車 - AM
ハロウと他愛のない話をして更に三十分ほど経っただろうか。
ジジ…という音がした後に、列車内に備え付けられているスピーカーから、乗務員と思われるスタッフの声が聞こえてくる。
『えー…皆さま、本日はご乗車いただき誠にありがとうございます』
「あぁ、ゲーム内でもこういう放送するんですね」
「みたいね、ふふ。聞こえてくる声は母国語なのに、周りの風景のおかげで外国に旅行に来たみたいだわ」
なんというか、一応新たなPK不可能フィールドである列車内だからか、私たちは酷くのんびりというか……そう。
少なくとも私はこの状況を満喫していた。
同年代に見える同性を正面に、横を向けば過ぎていく何処か幻想的ながらも現実味のある電子の世界。
今までこの世界でここまで安心しきっている状況はなかったんじゃないだろうか。
下手したらこのまま眠ってしまう可能性もある。それくらいにリラックスしていた。
だからだろうか。
『これから、列車内限定のイベントを開催致します』
乗務員のそのアナウンスが、一瞬聞き間違いかと思ってしまった。
真正面にいるハロウが、穏やかな笑顔から獰猛な笑顔に変わったのが、何かの間違いではないかと思った。
『これから皆さまに行っていただくイベントは、列車内デスマッチと呼ばれるものです。コンパートメント席にて同席しているプレイヤーと共にチームを組み、列車内にいる他チームを残らず殲滅したら、そこで終了。最後まで残っていたプレイヤーには特別アイテムを進呈します』
デスマッチ。
ハロウと敵ではないのには安心するが、不穏な単語が何個か今のアナウンスには含まれていた。
この列車内ではPKはできないのではないのか?それはどうなる?
『えー、イベント開催にあたり、限定的に列車内の機能を変更しております。イベント開始時から終了まで、コロッセウムと同じく殺しても殺されても死んでも死なれてもデメリットはなし、メリットもなしのなしなし設定でございます。賞品のために全力で殺すのもよし、賞品を独り占めしたいから、と言って味方を盾にし敵を倒すのもよし。皆さま、奮ってご参加くださいませ。イベント開始はこの後五分後からとなります』
視界の端に五分のタイムログがでてくる。
これがゼロになったらイベントが始まってしまうのだろう。
……最悪だ。
いや、むしろ良い機会だろうか。
場所は場所だが、ドミネに行く前にコロッセウムでの戦いの予行練習ができると思えば良いだろう。
しかし問題もある。
アナウンスでも言っていた通り、味方を盾にして戦うような……そんなプレイングをハロウがしようとした場合、見かけだけの左腕というハンデをもつ私は恰好の肉壁だろう。
ちら、とハロウのほうを見る。
すると、彼女はインベントリから革のアタッシュケースを取り出している最中だった。
何をしているのだろうか、と思い見ているとこちらに向かって視線を向けながら、
「ほら、シロさんも戦闘準備しなきゃ。……あ、もしかして遠距離タイプ?ならいいのだけど」
「い、いえ。そういうわけじゃないんですけど……」
「あー、分かった。私がシロさんを盾にしようとしてるとか考えてたんでしょ。そんなことするわけないじゃない」
悪戯っぽく彼女は笑う。
そもそも、と前置きをしてから話し始める。
「私、そこまで肉弾戦は強いわけじゃないから、シロさんができるなら頑張ってもらいたいなぁって思ってね?」
「できますけど……いいんですか?少し話しただけの関係ですよね?もしかしたら刺されるとか思いませんか?」
「ふふ、心配性なのね。大丈夫よ。そんなこと思わないし、そもそもシロさんにできるとも思いません」
毒々しい色をした何かが入った瓶を取り出しながら、彼女は断言した。
確かに私は、それをやる勇気は全くない。
というか、そもそも刺そうとしてもハロウに勝てる気がしないのだ。
「はぁ……じゃあ私が前衛をすればいいんですか?」
「えぇお願い。私はシロさんを後方から支援しますから」
やるしかないようだ。
というか彼女、目が笑っていない。勝つ気しかないのだろう。
残り時間が一分と少しになったタイムログを見つつ、戦闘準備を行う。
-----------------------
『時間になりました、これからイベントを開始します』
アナウンスとともに、列車の内部が横に広がる。
大体4人くらいが横に広がって通れるくらいか?
コンパートメントから恐る恐る出てみると、先ほどまで近くにあった他のコンパートメントは消えており、恐らくチームごとに車両分けされたのではないだろうか。
「さて、シロさん。まずは適当に雑兵から潰していきましょう」
「あっ、はーい……」
しかし、慣れないなぁ……。
ハロウがここまで戦闘となると性格が好戦的になるとは思わなかった。
言ってしまえば「ふえぇ…」とか言ってるほうが正直想像できたのだが。
「前と後ろありますけど、どっちから?」
「んー……確か私達の席って列車の中間くらいよね?なら前です。ゴーゴー」
列車が進んでいる方向を前にして進んでいく。
右手に護身石の短剣を持ち、不意打ちされないように薄く【霧海】を発生させてプレイヤーがいないかも感知している。
「開けます。ハロウさん中に魔術放り込んでください」
「了解、準備オッケーよ」
後ろでハロウが何かを準備しているのを感じたためそのままガラ、と扉を開ける。
「【呪術-蠱毒】射出」
さっ、としゃがむと頭の上を紫色の何かが車両の中へ入ってゆく。
というかこのまま開けていたら不味い気もするので、一度ドアを閉め、後ろから敵が来ていないかも確かめる。
『なっ?!なんだこいつら!!襲撃か!?』
『カドリック、呪術系の防護をしろ!…グハァ!?』
『カールゥ!!!』
何やら大変そうだから、静かになったら扉を開けよう。




