初遭遇、そして…
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始まりの街 - AM
「よっし、今日はテンション上げていこう!」
リアルのほうが休みのため、朝からログインする。
宿の中で一人テンションをあげていこう。昨日は初戦闘の疲れか少しテンションが下がり気味だったから、できる限り上げていく。
昨日【変異】を繰り返していたからか、錬成魔術の習熟度が500を超えていた。
まだ【変異-武器創造】を覚えてはいないけど、ある程度癖は掴んできた。
「あぁ、どうせやるならいろんな素材があった方がいいかも」
その場で武器を作るって言っても、その場に石が常にあるとは限らない。
そう考えた私は露店に寄り、丸太のまま売られている材木を何本か買ってくる。
「使い勝手がよさそうなのはなんだろ。前にやってたVRのファンタジーだと槍とハンマーだったかな使ってたの」
というわけで【変異】で石の短剣を作るのとは他に槍とハンマー…槌を作ってみることにした。
実際に使うかはともかく。
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始まりの森 - PM
午前中ずっと【変異】で武器をつくったりなんたりしていたので、午後からはフィールドに出ることにしたのだ。
錬成魔術の習熟度は710。あとは適当に使っていたら1000に届くだろう。
「【錬成-変異-武器創造・短剣】発動」
近くの木に触れながら発動させる。
長いことやっていた甲斐があったのか、短剣だけは作れるようになったけど、あとはこれの応用で槍とかもやっていけばいいだろう。
手には木製の簡単な刃だけの短剣が出来上がる。
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木の短剣 レア:Normal
【変異】によって木から作られた短剣。
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「とりあえず今日は、アースラビット以外のモンスターも探してみよう」
周りを警戒しつつ、前回アースラビットと出会った開けた場所まで移動する。
できれば会うのはアースラビットより大きく、動きが遅いモンスターがいい。今の私のこのゲームにおける戦闘の経験的にそれくらいのほうが相手として不足がないのだ。
前回のアースラビットを倒せたのが奇跡に近い。
そんなことを考えつつ、草陰に隠れていた時だった。
「……おやぁ、そこにいるのはだれだい?」
女の声がした。
私の隠れている草陰の前方に、一人のおかしな恰好をした女が立っているのが見える。
(まずいまずいまずいまずいまずい)
人に見つかる、それもPK可能フィールドで。
これがまずいと言わずなんというか。
…一応相手には会話の意志があるのかないのか、こちらに声をかけてきているが。
会話のキャッチボールをするか否か。
した場合、最悪相手がPKだったらそのままデスぺナ一直線だろう。
こんな初心者狩場にいるのは、初心者か初心者を狩りにきた奴くらいだ。
相手の姿を再度確認する。
女は赤ずきんのような真っ赤な頭巾をかぶり、軽装の鎧を着ているのが見える。
それに一番目を引くのが、その右手で開いている魔術書と思われる大きな本だ。
かなり大きく、女の頭よりも一回り大きい。
「あれぇ、きこえてないのかなぁ?」
「いや、聞こえてるよ。だから攻撃しないでほしい」
明らかに格上なのが分かる。そんな相手に突然逃げ出したところで無駄なのはわかるし、相手が会話を望んでいそうならそれにあやかればいい。…つまらなくなったら殺されるのだろうが。
「おぉー、どうもこんにちは。わたしはあかずきんっていうの。よろしくね、おじょうさん」
「あか、ずきん?」
「そうそうあかずきんー。あなたはだあれ?このへんじゃみたことないからしんじんさんかなー?」
話しつつ、逃げる準備だけはきっちりとしておく。
赤ずきんと名乗ったこの女がどんな魔術をつかってくるかが分からないし、そもそも固有魔術だってあるのだ。未知の魔術を使われたらひとたまりもない。
「んんー?あぁけいかいしてるねー。だいじょうぶだよ、ここはいまわたしのさばと【赤の十字軍】がPKかりをしているさいちゅうだからねー」
「PK…狩り…?なぜ?」
「うちのこがここらへんでひがいにあってねー。ほうふくかつどうちゅうってぇわけさぁ」
赤ずきんがつけている頭巾にあるマークをみせてくる。少女の横顔と林檎と狼を象ったマークだ。
サバト。WOAでいうギルドのようなもの…だったはずだ。
それに所属していれば、サバトのメンバーからはPKされなくなるし、同じ志で集った仲間なのだから協力関係を築くことが可能となる。
WOAで安全にパーティプレイをする場合、どこかしらのサバトに加入するのは推奨されていたはずだ。
「あぁ、そういえば名前を教えてないね、申し訳ない。私の名前はクロエ、よろしく赤ずきん」
「くろえちゃんかーよろしくねぇ」
私はこの段階で赤ずきんに対する警戒をほぼ解いていた…というのも、【赤の十字軍】に関してはリアルの方…WOAに関するスレッドの方で読んだことがあるのだ。
曰く、彼らはWOAの中の警察的な位置にいるとのこと。
曰く、彼らは出会った初心者に対し出来るだけの便宜を図るということ。
曰く、そのリーダーとは絶対に関わらないほうがいいとのこと。
一番最後の情報だけがよくわからなかったが、これだけ言われているサバト名を名乗ったのだ。ある程度は信用してもいいだろう。
一応逃げる準備は崩さないけど。
「えーと、じゃあ私ここにいたら邪魔になるよね、始まりの街に戻っておくよ」
「あぁ、ちょーっとまってぇくろえちゃん」
引き止められてしまった。逃げたかっただけなのに…。
「……なにかな?」
「ちょっとだけPKしたことがあるかだけしらべさせてねー…展開【童話語り-赤ずきんより狼を】」
固有魔術…!バッと後ろに飛び退いたが、それは遅く。
赤ずきんの持っていた大きい本から光が出てきたと思いきや、私の中に入ってくる。
「あぁくろえちゃん。だいじょうぶだよー…PKしたことさえなければ、ねー」
赤ずきんはそんなことをカラカラと笑いながら言う。
しばらくすると、私の身体からは先ほど入った光が出てきて霧散していった。
「あ…?」
「うん、やっぱりくろえちゃんはPKしたことなかったんだねぇ。じゃあくろえちゃんじゃあねー」
「えっあぁうんじゃあね赤ずきん」
よくわからないうちに赤ずきんが森の奥へ行ってしまう。
その後ろ姿を見ながら、
「本当になんだったんだ一体…」
とつぶやいてしまうのは仕方のないことだった。