小人+心臓=?
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「うん、とりあえず私が視てみてもいいかな!?」
「あーはい、どうぞ」
ガビーロールと名乗ったこのプレイヤーは、おそらく攻略板でゴーレムの専門家と呼ばれていたあの人なのだろう。
彼は、少し目を細めながら私の手の中の心臓を視る。
ゴーレム関係に特化した【鑑定】でも持っているのだろうか。
「ふむ、確かにそれはゴーレムだね……しかしまだその状態で活動できている…いや活動できているというよりも、その状態自体が館の支配者の本当の姿か?」
「ほう?といいますと?」
「いや、単純にだ!我々ゴーレムを使役する魔術師は、このゲームの中では表面に羊皮紙を張り付ける事でゴーレムを起動させる!特殊な固有魔術でもない限り内部に羊皮紙貼り付けて後々起動!なんてものはできないのだよ!」
ガビーロールはそう力説する。
いわばゴーレムは、糸操り人形のようなものなのだと。
糸の代わりとして羊皮紙があり、「emeth」という文字を打ち込むことにより完全な糸操り人形となるのだと。
だからこの心臓のように、内側にある核自体に貼り付けて起動するのは、現状物を透過出来るような固有魔術持ちのゴーレム使いにしかできないことだ、という。
「でもそれなら、これはどういうゴーレムなので?」
それならば、今回のこの心臓はどうなのだろう。
ちら、と心臓を見る。ログは『変換中です:21%』と、少しずつ変換が進んで行っている。
身体に全く不自由がないどころか、デバフにすらかかっていないのが逆に不気味だ。
「いや簡単さ!運営の作ったものだからね!!どうせ核にそういう…周囲にあるものを素材にして身体を作り上げろ、みたいなプログラムでも走らせてるんじゃあないかな!!私がやれって言われても確実に無理だけど!!!!」
明らかに私より上位者が無理という。
まぁそういうことなのだろう。プレイヤーメイドでは無理だが、運営が特別に実装するなんてオンラインゲームでは珍しいことじゃあない。
「じゃあ、これの接続ぶち切りたいんですけどこれどうすべきですかね?」
「そうだね!元はそういう話だった!!ちょっとやってみるかな。【ゴーレムメイキング】発動」
と、心臓に対しガビーロールが固有魔術を発動させる。
こちらからは見えないが、何かしらのウィンドウを弄っているのだろう。
空中で色々と指を動かしながら何かとにらめっこしている。口元がにやけているが。
「ふむ…ちょっと君、身体的な異常はないのかい?」
「えっ?あぁ、特にないです。デバフも自分でつけた呪い系以外特にかかってないですし」
「ほうほう…!いやねこれ!君中身がほぼ書き換えられていってるんだ!しかもモンスター側にね!おそらくだけど、このままほっとくと君のそのアバターが操作不能になるかな!!元に戻すにしても殺すか何かしない限りは少し厳しいんじゃないかな!!」
「まぁ大体予想通りですねーハッハッハ……はぁ。ガビーロールさんはこの心臓に攻撃とかってできますか?」
一応聞いてみる。
「できなくはないね!どうせ反撃される程度なのだろう!?ならば私自身が攻撃せずに…目には目を歯には歯をってことでゴーレムにはゴーレムを!【錬金-クリエイトゴーレム】発動」
彼は片手を地面に翳しながらそう言い、もう片方の手で懐から羊皮紙を取り出す。
土がある程度…ガビーロールの腰くらいまでの大きさにまで膨れ上がると、人の形へと成形されていく。
見た感じ小人のようなものだろうか。
ガビーロールはそれに対し羊皮紙を貼り付けると、小さく何かを呟く。
それが起動の合図となったのか、そのままその小人ゴーレムは動き始めた。
「よーし、行きなさいリリパット。心臓を破壊するんだ」
彼の口から、優しく声が出てくることに感動しているのは場違いだろうか。
ともかく。彼は優しく小人ゴーレム…リリパットに話しかけると、リリパットはこちらの持っている心臓を握りつぶそうとする、が私が持ってる高さがリリパットの届く距離ではないために、少しだけぴょんぴょんしている。
これはかわいい。
「おいおい意地悪しないでやってくれ!というか君危機感持った方がいいんじゃあないかい!?」
「あぁ、いや。一度慌てないようにって落ち着いちゃったら、そのまま逆に慌てられなくなっちゃって」
「いやいいんだけどね??しかし君はアレだな、気持ちの持ち方が特殊だな!少し興味が沸いたよ!!」
心臓の位置をリリパットの届く距離まで下げてやる。
そうすると、リリパットは心臓に手を伸ばしそれを掴んだ、はずだった。
「は?」
「え?」
リリパットが触れた瞬間、心臓にリリパットが吸収され、その分一回り分心臓が大きくなった。
私とガビーロールの間に何とも言えない静寂が訪れる。
いやいやいやいや。
「待って待って!これって確実にまずいですよね!?そうですよね!?」
「は、ハハハ!!!!いやでもこれはちょっと私にも想像できなかったかな!!!いやでもこれはちょっと不味いかもしれないね!?」
「そうですよね不味いですよね?!ちょっと落ち着いてられなくなってきましたよハッハッハ!!!!」
冷汗がだらっだら流れ続ける。
ログを見てみると『変換中です:53%』と一気に進行しているのがわかる。
どうしよう、これ。




