現れる騒音
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『変換中です:3%』
「よーし、少し落ち着こうか!」
恐らく、これは普通に罠だったのだろう。
腰にあった「emeth」という文字を見たら、詳しい人間はゴーレムだということに気づくはず。
それに加え、外には他に「emeth」と書かれた羊皮紙がない……となれば、内部にあると考えるだろう。
そして先ほど私がやったように、館の支配者の身体を切り開き内部、心臓に縫い付けられた羊皮紙を見つける。
他の人はどうするかはわからないが、私はそれを取り出した。
もしかしたら何かで触れる事自体がトリガーの可能性があるが、それによって私は接続……寄生され、現在変換されていっているというわけか。
「これ、そのまま血管切ったらどうなるんだろ」
護身石の短剣を使い、私の首に伸びる細い血管を切ろうとしてみる。
が、刃を近づけた瞬間に心臓から新しい血管が伸び、こちらの手の甲を攻撃してくる。
「あっちゃー、無理やり引き剥がそうとするとダメなパターンかぁ面倒だなぁ」
では魔術はどうか、ということで【怠惰】を発動させる。
……一応効果としては出ているようだが、ログの『変換中です:5%』の数値が進む速度が少しだけ遅くなっただけだった。
効果があるのなら一応かけておこう。攻略板にならこういう寄生系のモンスターの対処について知ってる人がいるんじゃないだろうか。
……いや、攻略板の人には頼りたくはない。先ほどのリセットボタンを思い出すとなおさらだ。
「こういうときの赤ずきんさん、かな」
知り合いの中で一番ゲーム内に詳しそうで、尚且つ色々と便利な固有魔術をもってそうな彼女だ。
通話をかけておく。
『やぁやぁやぁ!クロエちゃんどうしたのかな?』
いきなりテンションが高い……まぁ仕方ないだろう。赤ずきんだし。
「いえ、ちょっと面倒な事になりまして。寄生してくるモンスターって知ってます?」
『知ってるけども、攻略板見る限り結構大変そうだね。どんなモンスターだい?』
「えーっと、心臓なんですけど」
それを伝えると、彼女は少し悩むように唸る。
『うーん……私の記憶がアレなだけかな。事務仕事をやらせていたジーニーを呼ぼう』
「事務仕事くらい自分でやりましょうよ……」
少しだけ待つと、ジーニーの声が聞こえてくる。
『ふむ、心臓か。私は別にそういうものを識るために呼ばれているわけじゃあないのだけども』
『ほら良いから、知ってる?知らない?』
『知っているとも。しかしそれはモンスターではないね』
「えっ、モンスターじゃあないのこれ」
先ほどからログを出してきて、血管にて攻撃しているこの心臓はモンスターではないようだ。
いや、じゃあこれは何なのか。
『んん、クロエちゃんそれ館の支配者から出てきたの?』
「えぇそうですよ。身体を切り開いたらこれが」
『君はやはり割と良い性格をしているね。うん、それならばその心臓はやはり【ゴーレムの真核】と言われるやつなのだろう』
【ゴーレムの真核】。
それだけ聞くのであれば、これを使えばゴーレムを作ることができそうなのだが、現状私がそのゴーレムを作る素材になりそうになっている。
「えっと。なんか私がゴーレムになりそうなんですけど、これ一体」
『おぉう、クロエちゃんゴーレム化か、それはそれで良し』
『赤ずきん、君は少し真面目になるべきだね。……しかしそれは本当かい?【鑑定】はしたのかな?』
「おっと、していなかった。忘れてたよ、ありがとジーニー」
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館の支配者:レイドボス
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「えーっと……?ジーニー悪いけど、これモンスターっぽいよ?館の支配者って出てるし」
ログは現在『変換中です:13%』となっており、着実に確実にそのままパーセントが進んでいく。
『ほう?それは…うん。そうだね。つまりはそういうことなのだろう』
『こらジーニー。わからなくなったからって放り投げない。クロエちゃん、それ今どんな感じなの?君がゴーレム化していっているんだよね?』
「そう、ですね。変換中ってログが出てます。一応デバフかけてその進行自体は遅くしてますけど」
そういうと、赤ずきんは少しだけ唸ったあとにこう言った。
『ふむ、じゃあ少しまっておくれ。若干五月蠅くはあるが確実に詳しい奴に連絡してみる』
「ほう?じゃあそのままデバフかけながら待ってますかね」
一旦通話が切れる。
赤ずきんに頼りすぎるのもあれなのだが、流石にこれは仕方がない。私自身よくわかっていないし。
「とりあえず【怠惰】っと」
連絡が来るまで何度か【怠惰】をかけ続けるのもありかもしれない。
モンスター相手に何回もかけたことはないが、もしかしたら変容か何かするんじゃないだろうか。
「あ、もしかしてあの時会った変異体ってこうやって人為的に作れたりするのかな」
その場合、報酬とかどうなるんだろうか。
人為的に作られた変異体はそもそも報酬関係はなくなるのかもしれないが。
「やぁやぁやぁ!君がクロエさんかな!?やっほう赤ずきんちゃんから話は聞いているよ!僕が助っ人のガビーロールだよろしくね!!」
「うっわぁ…」
後ろから突然大音量でかけられた声に振り向くと、そこにはマントを翻しながら変なポーズをとっている魔術師然とした姿の男がいた。
赤ずきんと同じようなテンションな彼は、名乗った通りガビーロールという名前なのだろう。
そういえば攻略板でも、赤ずきんが専門家とか言っていたっけか。
「ふむ、その手に持つ心臓があのゴーレムの核なのかな!一応ゴーレム関係で困っているって聞いたから来たのだけど!」
「マジか…あの人ほぼ何も話してないじゃん…」




