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この殺伐とした魔術世界で  作者: 柿の種
第一章 霧の中歩いていこう

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作業作業単純作業、ネガティブポジティブ

もしよかったら感想やご指摘などよろしくおねがいします。

今回、少し人によっては不快に思ったりするかもしれないシーンがあります。


再度、巨大な何がが落ちたような音がした。

館の支配者はまた穴にかかり、もがくようにして周囲の樹を投げ飛ばしてくる。


「あーモう、危ないなァ」


時々自分の方向に飛んでくるものだけを、事前に察知し少ない動作で避ける。

まだまだ余裕はあるが、余計に動き回って疲れてドボンだけは避けたいからね。

プラスで、館の支配者に触れないように【霧海】を動かし変容させた土がどうなってるのかも確かめる。


-------------

土【怠惰】

-------------


成功、と言えばいいのだろうか。

館の支配者は、変容させてあるものに触れたとしてもそれを変容前には戻すことができない。

完全に弾くことが可能なのは、直接自らに作用してくる魔術だけ、ということだろうか。


例えば、ここで私が館の支配者に向けて【怠惰】を使ったとしても、彼はそれを弾くだろう。彼に直接使っている魔術だから。

しかし、例えば…そう。穴の底に泥のようにだるんだるんになるまで【怠惰】で変容させた土などに触れたとしても、彼に直接使っているわけじゃないから彼の対魔術は反応しない。


「間接的でアればナンでも通ルってコとかな?」


館の支配者にハンマーで攻撃を加えながら、この結果をどう活かすかを考える。

ただ変容させたものを使うだけでは意味がない。というか、魔術が効かない以上、私がいつも使っている【怠惰】でごり押しや、【チャック】で体勢を崩してごり押しなんかができないのだ。


……アレ、私ごり押ししかしてない?


気にしないでいこう。

生物であれば息をさせないように…など色々考えることができるのだが、見た目的に普通に息を吸って生きているわけじゃあないだろうし。


「とりアエず、今回もゴリ押しデ!」


本当にイベント攻略板の人達の作戦立案が間に合うと思ってはいない。

いかにもゲームらしいが、罠にハメて少しずつ削っていく。これを繰り返していれば、ワンチャン狙えるのではないだろうか?


何も考えず、ハメて殴るを繰り返してみよう。



-----------------------



「ハァ!」


ガキン、と音を立てながら少しずつ館の支配者の表面を砕いていく。

何度か繰り返しているからか、彼の表面はいくつもヒビが入り砕けやすくはなっている。


しかし、その分砕くごとに彼の全体的な速度が上がっていっているのだ。

アレから十回ほど穴にハメ、五回ほどハンマーを作り直している。

その間にも、彼の速度は上がり続け彼が穴から出掛かったら全力で走り始めないと追いつかれてしまう可能性も出てきた。


でも良い点もある。

表面を砕くごとに少しずつだが、館の支配者に魔術が通るようになってきているのだ。恐らく、元々魔術耐性があったのは表面だけだったのだろう。

このまま殴り続けていればやがて魔術もきちんと入るようにはなりそうだ。


「しッかシ、まだカな。流石に遅スぎない?」


作戦立案のプレイヤー達からの援軍…というかリセットボタンによる連絡すらない。

やはり、レイドボスだからといって他プレイヤーと協力して作戦なんて無理があったのだろうか。

まぁみんな、いつ後ろから刺されるかもわからないこのゲームで協力して倒すなんてできないだろう。


こんな状況だから協力しよう!と言っても、逆にこんな状況だからこそPKが捗る。

警戒しているとしても、仲間として近づけば一定の隙が生まれる。そこを狙わないPKなんていないだろう。


普段はPKしていなくてもそうだ。

魔が刺した、ついやってしまった……など、理由はいくらでも思いつく。しかもサバトメンバーでなければ、誤射でそのままドボンになる可能性もあるのだ。

そりゃ同じ戦場で戦うのも覚悟がいる。


館の支配者がこんな姿になる前に広場にいた彼らは、それだけ覚悟をもって戦っていたのだろうか。

あわよくば隣人を殺してやろう、とは考えていた可能性はあるが。


「私二は、出来なイなぁ」


ある意味尊敬する。

私だったら彼らのようには覚悟は持てないし、持てないからこそ実際に【五里霧】で姿を隠していた。

赤ずきん達との共闘中もそうだ。【霧海】で彼女らの動きを出来る限り把握してないと安心できなかった。私から見れば彼女らは絶対強者だったから。


自嘲気味に笑う。

今更何を考えているのだろうか。今やるべきは目の前の館の支配者を出来るだけ殺しにかかることだけだろう。

人間は、辛い時にはネガティブになっていく。そう教わった。

ということは私は今辛いと思っているのだろう。今まで以上にネガティブになっているのだから。


邪念を振り払うように、ハンマーを振るい彼の表面を砕いていく。

砕けたところに【怠惰】を弾かれてもかけていく。


大体彼の表面を50~60%ほど砕いただろうか。

彼は既に穴から出始めているが、もうここまで来たら逃げたところで速度で負けて追いつかれるだけだろう。


【霧海】を自分の出来る限り全力で発生させる。

【禁書行使】を使い切れかけていた【異常強化】、【視界強化】、【憤怒】をかけ直す。

【チャック】の中からいつも使っている二つの短剣を取り出し、ハンマーを捨てる。

【身体強化】を足に重点的にかけ、私の鈍足を補う。

そして、MPポーションを飲み干す。


館の支配者は、穴から出て私を見ている。

そんなに読まれたのが憎いのか。それだけ気にしているのなら、あんなわかりやすいところに書いておくんじゃあない。

私は気になっちゃうから読んじゃうんだ私のせいじゃあない。


「あァ、怠い。もう身体ヲ動かスのが怠い。君ト戦うのも怠い。余計な事を考えテしまうのも怠い」


自虐的に呟く。あぁ、こんなの他人に見られたら危ない人だと思われてしまう。


「私を殺そウって思うなラ、出来ル限り足掻かセテもらうから覚悟シろ」

「--------ァ!!!!」


私の言葉に反応してか、館の支配者も叫ぶ。

さぁ、今までの準備運動の成果を見せようじゃあないか。


彼女も、一人の弱い人間。

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