感じた違和感、強化と共に
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「【錬成-変異-武器創造・槌】発動」
久方ぶりに【武器創造】を発動させ、近くに岩からハンマーを創り出す。
硬いものを砕くなら、手持ちの短剣よりもハンマーの方が良いだろうという判断だ。
館の支配者は、また私が作った穴にハマっている。
やはりモンスター、AIはそこまで高度じゃないらしく同じ罠に何度もかかってくれる。
ただし。
「少しずつハマってから復帰するまでの時間が短くなっていってるのが気になるかなぁ」
ハンマーを使い、暴れる館の支配者を出来るだけ殴り続ける。
巨大化してからプレイヤーのような見た目は何処かへ消え、腕4本、トロールのような顔、そしてそれら全てが岩で出来ている彼は、その無表情な眼で殴り続けている私を捉えて離さない。
一瞬、シスイに逃げ帰ってしまうのはどうだろうかとも考えた。
赤ずきんは兎も角として、灰被りがいるだろう。だが、これはダメな策だ。
恐らく、シスイにいるプレイヤーが彼女ら2人ならまだ良かっただろう。しかし、シスイには多くの…それこそテセウスなんかのプレイヤーもいる。
そのまま逃げ帰ろうとすれば、後ろからついてくる館の支配者と共に攻撃魔術の雨を浴びることになるだろう。
「【禁書行使-召喚-棚】発動」
まだ館の支配者が抜け出さないのを確認しつつ、本棚を召喚する。
やはり、【憤怒】はデメリットがある分バフをかけるのなら【異常強化】の方がまだ便利だ。
「展開【強化魔術一節】、【禁書行使-強化魔術一節-身体強化】及び【視界強化】発動」
未だに慣れない禁書を使った時の感覚と共に、自分の身体に強化魔術が掛けられる。
身体強化はいつものように、異常なまでに私の身体能力を上げてくれる。
初めて使った感覚強化系である視界強化は、その名の通り、見える範囲を異常なまでに広げてくれる。【視界異常Lv1】というバフはその名の通り、ほぼ真後ろまで振り返らずに視界に捉えることが可能となった。
「うげ、きもちわる…」
そのおかげか、デメリットとして【身体強化】の【頭痛Lv3】と共に【嘔吐Lv3】というデバフが加わっていた。
モノは出ないだろうが、それはそれでこの吐き気を抑えることができないという意味で。かなりキツい。
「うー…我慢だ。【禁書行使-第四章-憤怒】発動」
更に自分にバフとして【憤怒】を重ねがけする。
元々アンガーバンデージのお陰で私に付与されていた【憤怒】を強化する形だ。
視界が狭まる…が、【視界強化】を使ったためか視界制限はあまり気にならない…というよりほぼデメリットとしての意味が無くなってしまっている。
【憤怒Lv5】まで上げると、普段の視界レベルまで狭まったが所詮はその程度だ。
視界制限よりも、口から漏れ出る黒い靄の方がよっぽど邪魔をしてくる。
「サて、一旦ニげよウ」
と、ここで館の支配者は穴から抜け出してこちらへと襲いかかってくる。
幾分か遅くなったように感じるそれを悠々と躱しつつ、また殴り続ける事が出来そうな広場を探す。
といっても、穴を掘れば彼が勝手に暴れてそこが広場となるのだが。
だが、やはり少しずつではあるが穴から抜け出す速度が速くなっているのは気になる。
一応攻略板に情報として置いておいた方が良いだろう…とは思うのだが。
この状況で音声入力でもレスするのは少し面倒だ。画面見ないといけないし。
なら情報を流してくれそうな人に通話かけて、代わりを頼むとしよう。
強化したため、速くなったその足で一旦館の支配者からある程度距離を取り、リセットボタンへ通話をかける。
「もしもシ」
『おぉ?クロエさんどったのー?まだ作戦練り終わってないよー??』
「イエ、少しお話しトきタイなと思ウ事が起きテまして」
『なんか声変ちゃう?まぁいいか、ほいほいなんでしょね』
リセットボタンに、館の支配者が穴から抜け出すのが早くなっている事、それに伴い作戦で同じような罠を使う場合は注意が居るであろうことを伝える。
『んー、クロエさん何回くらい穴にハメた?』
「大体10回クらい?初めテ穴ハメした時からは30秒くらイ抜ケ出すの早くなッてますネ」
『やっぱり声おかしいよね?…まぁいいや、情報ありがとう。みんなに伝えておくから、そのままの調子でよろしく』
軽く返事をして通話を切る。
さて、やることは変わらないがしっかり削れるものは削っておく必要がありそうだ。
初心者に任せられる仕事ではない、という想いはある。ないわけがない。
だが、私しか今は出来ないわけで。
「正直、【俯瞰視】持ちガ来レばタゲ分散するんじゃ…」
私も持ってはいるが、使ってはいない。
というか、【俯瞰視】を使うくらいなら慣れている【霧海】を使った方が便利なのだ。感知できる範囲的にもデメリット的にも。
攻略板でみたLoseRoseというプレイヤーは割と使っているようだが、後で使用感なんかを聞いてみてもいいかもしれない。
【範囲変異】を使い、先ほどよりも大きめに穴を掘る。
ここで、少しだけ気になった事が一つ。
魔術によって変化したものは弾かれずに問題なく攻撃や罠として通用する。
では、変容したものはどうなのだろうか。
試してみてもいいかもしれない。
穴の底に対して、【怠惰】を使い続ける。
見た目からはあまり分からないが、【霧海】によって感知させてみるとしっかり『土【怠惰】』と変わっていた。
そろそろ館の支配者が私に追いつくはずだ。
そこでどうなるのか、確かめさせてもらおう。




