話し合い、見せ合い
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ヴェールズ首都 シスイ - AM
翌日。
イベント中なのだが、襲撃されている場所が遠く、ほかにやることもなかったために昨日は早々にログアウトしリアルの用事を片付けてきたのだ。
「ふんふふーん」
鼻歌交りにテセウスの店のある路地裏へと歩いていく。
というのも、昨日作っていた指輪が完成し、なかなかに良いものだったからだ。
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呪薬種の指輪 レア:unique
大罪魔術により変容した物たちが合わさりできた指輪。
装備者に再生効果と共に呪いを付与する。
【再生Lv2】【怠惰Lv2】
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複数の枝が絡み合い、宝石のように薬草の種が埋め込まれている指輪は呪われた装飾品になっていた。
現在も装備はしているため、思いっきりデバフとして【怠惰】が自分自身にかかっているが、そんなの一度【第一章】を読むときにもっとつらいものを経験している。
これくらいならばまだ動ける。
しかし、これで分かった事は変容した素材を使えばそれによって【異次元錬成】で出来るものも影響を受けるということだ。
何かの例外があるかもしれないが、普通に【変異】や【鍛冶】なんかの上位として【異次元錬成】があるのかもしれない。
「さてと、着いたね」
一人テンションが上がりつつ歩いていると、いつの間にかテセウスの店の前までついていた。
一度自分の姿を見て、おかしいところはないかを確かめたあとカランコロン、と店のドアを開ける。
「やぁいらっしゃい。待っていたよ」
「どうもです」
中にはテセウスと近くに知らない土精族の男性が待っていた。
漫画やアニメなんかに出てくるドワーフにそっくりな見た目をしている。
おそらく彼が今回テセウスが仲介してくれるというプレイヤーなのだろう。
「どうも、クロエといいます。以後お見知りおきを」
「あぁ、グリルクロスという。良い商売になることを祈っている」
彼…グリルクロスと握手を交わし、テセウスが用意してくれたテーブルに着く。
ここからは私が話していかなければ進まない。
「おそらく事前に聞いてると思いますが、防具を作ってほしいなと思いまして」
「おう聞いているさ。一応聞くがどんな代物がいいんだ?あんた短剣を使うんだろ?それなら軽装か?」
「はい、出来るだけ軽くそれでいて防御力があればいいなぁ、と。出来ますか?」
「素材によるな。何か用意はしてきたか?」
一応用意はしてきたため、変容させたものをリスト化してそれをグリルクロスに渡した。
彼はそれを受け取り、上から目を通す。
「嬢ちゃん、これどうやって作った?…いや今現物があるのか?これ」
「え?えぇありますけど…」
私はインベントリから精霊鉱【怠惰】を取り出す。
グリルクロスはそれを受け取ると、様々な角度からそれを見始めた。
「ふむ…ふむ…?なぁ、マナー違反なのはわかってるんだが、聞かせてくれ。嬢ちゃん今のクラスは何だ?」
「咎人ですが…」
そういった途端、グリルクロスは「咎人……?」と呟きながら再度手に持つ精霊鉱【怠惰】を観察している。
「何かおかしいところでも?」
「いや。おそらく【変容】がかかっているのは間違いないが、【怠惰】なんて魔術聞いたことがないし、そもそも……。嬢ちゃんこれどうやって手に入れた?」
「元になった精霊鉱はこの店で買いました。【怠惰】に関しては自前です」
「ふむ…。このリストにあるほかのものも全て嬢ちゃんが【変容】させたのか?」
「そうですね。【怠惰】で変容させたものです」
何が不思議なんだろうか。
よくわからないので首をかしげていると、テセウスが補足してくれる。
「あぁいやね。元々【変容】っていうのは、【変異】の上位に当たる魔術なんだ。それを扱うにも、クラスでいうなら上級錬成師とかじゃないと厳しいって話をよく聞くんだよね」
「あ、それクラスチェンジ候補にありましたね」
「そうなのかい?」
とりあえず、何で驚かれているのかは分かった。
というかやはり変容は魔術として実装はされているのか。
「よし、いいだろう。この材料を使って受けてやる。ただちっとこれだけじゃあ量がすくねえな。嬢ちゃん金は余ってるか?」
「えぇ、それなりに」
「ならよし。テセウス、たりねぇ分はお前から買うってことで大丈夫か?」
「大丈夫だよ。じゃあリスト持ってくるね」
グリルクロスからトレード要求がくるため、承認しリストアップしていたアイテム全てを送る。
お金に関してはまだどれくらいかかるか分からないから、装備ができた後に払う形となった。
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あの後、グリルクロスと装備の外見について煮詰めていったり、足りていなかったアイテムを買いその場で変容させてみせるなどもした。
「そういや嬢ちゃん」
「はい?なんです?」
「いや、今回は防具のみの依頼だが武器の方はいいのか?」
「あー、そっちに関しては問題ないです。何とかなってますし」
ほう…?とグリルクロスは小さく呟くが、深く詮索はしてこなかった。
そこまで見せてしまうのは、流石に手の内を明かしすぎる。
先ほど変容させるのを実演したのも、こちらの手の内を明かすことでPKする意思がないという言外の意思表示なのだ。
こんなWOAというゲームで鍛冶職人という一歩間違えばすぐにPKされてしまうものを生業にしているグリルクロスがわからないわけないだろうし、テセウスもそれがわかっていたからこそ私を止めないで店の中で実演させてくれたのだろう。
「よし、大体はこんなもんだろう。こっからは俺個人の仕事になる。出来たらメッセージ送るから、それまでは好きに過ごしておいてくれ」
「わかりました。よろしくお願いしますね」
笑顔で握手をし、テセウスの店から出る。
すっかり暗くなってしまったため、一応【五里霧】を使い、ステルス状態になりながら宿へ帰ることにした。




