確かめよう
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ヴェールズ首都 シスイ - AM
次の日、私は朝からログインしていた。
色々とやることがあるが、一つだけ早ければ早いだけいいだろうというものがあったからだ。
『禁書の研究を開始しますか?(所要時間:24h) YES/NO』
「もちろんYESっと、これで二冊目か」
夫人との戦闘報酬である禁書【第四章】。十中八九、途中で夫人が使っていたものだろうが、あるとないとでは戦術の幅が段違いなのは間違いない。
問題があるとすれば……
「私が使い魔やらなんやらを持っていない、ってところだね」
これまで、何度か赤ずきんの使役するNPC…ジーニーなんかを見てきたが、あぁいうのを使い魔というのだろう。
じゃあ私が使い魔を使役するには?そういった魔術を探すしか手がないわけで。
「テセウスさんなら何か知ってそう…かな?情報が命、とも聞いたことあるし」
幸い、今いるシスイ近くのリーン森林からの侵攻が止まっただけで現在はまだイベント中。
前に灰被りと共に訪れたあの裏路地に彼はまだいるだろう。
インベントリをちらっと見た感じ、やはり首都への侵攻を止めたというのはなかなかに貢献度が高いらしく、運営名義で貢献度報酬という名目でかなりの額の金銭が送られてきていた。
イベントの説明には貢献度云々は書かれていなかったはずだが、まぁ常識のようなものなのだろう。書くほどですらない、もしくはこの貢献度というシステム自体公にされていないイベント要素の可能性もある。
なんにせよ、ある程度自由に使える金が手に入ったのだ。前回あまり買えなかった精霊鉱やらを出来るだけ買ってしまいたい。
「じゃあ出発しようかな」
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カランコロン。
「どうも、テセウスさんいますか?」
「ん?あぁきみは……クロエ、さんでよかったかな?」
「えぇ、どうもです。纏まったお金もできたんでいろいろと買い込みに来ました」
そういうと、彼は「ちょっとまってね」といいながら店の奥へリストを取りにいった。
前にも少し思ったが、こうやって店番もなしにプレイヤーを放って奥へ行くのは、それだけセキュリティ的に安全な理由があるのだろうか。
「お待たせ。前回来たときに買ったのは確か精霊鉱だったよね。それと色々って言ってたから雑貨なんかもリストにまとめてきたけど余計なお世話だったかな?」
「いえ、助かります」
リストを受け取りつつ、買うべきものにチェックを付けていく。
精霊鉱は当然買うとして、今回割と消耗しているMPポーションに防具用……そうだった。
そういえば私はまだ防具に関しては特に何も弄っていない。
「テセウスさん、少し相談があるんですけど」
「ん、なんだい?値切り以外なら応じよう」
「あぁいえ、防具を作りたいんですけど、信用できる土精族のプレイヤーとか知りません?知ってたら仲介してほしいなって」
テセウスは商人だ。
こんな裏路地に店を出しているからといって、在庫を確保するだけの伝手はあるし、現在ここに店を出しているのも一種のセキュリティ面を鑑みた結果なのだ。
人脈は確実に広いだろうし、そんな彼を頼れるのならば人脈面では頼ったほうがいいだろう。
「知らないこともないけど…そうだな、少しだけ頼まれ事をしてくれないかい?それの結果に関わらず仲介はしてあげるから」
「頼まれ事?」
「あぁ……すこしだけ、布と糸、それに綿を多めに仕入れてしまって困っているんだ。それを買ってくれる人を探してほしい。なんなら君が買ってもいいのだけどね」
なるほど、商人らしい頼み事だ。
しかし、なぜそんなものを仕入れすぎてしまったのだろうか。
「お金に余裕があるんで私が買いますけど…なんでそんな在庫を抱えるくらいに仕入れちゃったんです?」
「あぁいやね……ちょっと徹夜してて操作ミスだね。発注した後にログアウトして寝ちゃったから次の日モノが届いたときにはキャンセルなんてできないし、どうしようか困ってたんだ」
「うわぁ…。うん、いいですよ買います。あとは精霊鉱10個とMPポーション5個でお願いします。ほかは足りそうなんで」
「毎度あり。かなり稼いできたね短期間で」
「えぇ、ちょっとおいしい敵がいたので。……あぁそうそうテセウスさん。これは別にしらなかったらいいんですけど」
「?」
「いえ、使い魔とか使役モンスターとかそういうのを使えるようになる汎用魔術ってどこで習得できたりしますかね?」
あぶない、元々ここへ来た理由はソレを聞くためだったのをすっかり忘れてしまっていた。
私の質問を聞いたテセウスは少し悩むような顔をしたあと、こう答えた。
「ここらへんでは聞いたことはないけど…確か火精族の国の方には割とそういうのがあるって聞いたかな?ほら、彼ら付与に特化してるだろ?それの派生らしい」
「ふむ、火精族か…ありがとうございます。時間ができたらちょっと行ってみようかな」
その後、仲介してもらえる土精族のプレイヤーと連絡が取れ次第、私に連絡をとばしてくれるらしい。
そのためにフレンド交換もしておいた。
……この世界のフレンド、という言葉ほど信じられないものもないな、とは思ったが。
テセウスに礼を言い、店を後にする。
このあとは、宿に戻り精霊鉱を加工したり大罪魔術や深影魔術について少し研究…というか特徴を知ろうと思う。
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「さってと、とりあえず深影魔術のほうやっていくかな」
【鑑定】を使い、深影魔術にて使える魔術を確認する。
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深影魔術
【影化】
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【影化】という魔術が使えるようだ。
普通に考えたら、影になったり影と同化する魔術だろうか。
すこしだけ使ってみよう。
「【深影-影化】発動」
発動した瞬間、身体が下に引っ張られる感覚があり、そのまま足元の影へ沈んでいく。
頭までずぶん、と影の中へ沈むとMPが微量ながら使われていっているのがわかる。
影の中は水中のようで、薄暗い。
自分の入ってきた影をみると、水たまりのようになっている。そのまま出れるのか、と思い顔だけその水たまりに突っ込んでみると、普通の宿の部屋に繋がっている。
「影の中に入れる、っていう魔術かな。入るために使った影は消えずに出入り口になる、と。これほかの人も入れるのかな」
良い知り合いがいないため、それを確かめる術は現状ない。
ただし、これは意外と便利なのではないだろうか。
【五里霧】を使いステルス行動するのもいいが、この【影化】を使えば夜や路地裏なんかでは良い隠れ場所になるのではないだろうか。
影の中で漂いながら【チャック】を発動してみる。
問題なく開くようだ。一方で、取り出した精霊鉱に対し【変異】をかけようとすると発動しなかった。
「固有魔術は発動する、っていう感じかな?割とこれは便利かもしれないね」
現在は【チャック】と【霧海】しか持ってはいないが、固有魔術が増えてくれば威力確認など、人目がない場所で行わないといけない検証なんかも増えてくるだろう。
その時にこの【影化】は便利だ。
「もし他のプレイヤーも引きずりこめるなら、遠距離タイプのプレイヤーなんて何もできないで殺せるんじゃない?これ」
レアなだけあって、割といい魔術のようだ。
早めに習熟度もあげてしまって、ほかの魔術も使ってみたい。
習熟度上げのために影の中で先ほど開いた【チャック】を操作する。
精霊鉱と護身石の短剣を【異次元錬成】するためだ。こちらもできるなら強化はしておきたいし、殺傷能力が上がるならそれもそれで助かるからだ。
「大罪魔術も調べないとなぁ」




