Another Story 【終わった後の世界】
2019年最後なので。
■クリス視点
ヴェールズの首都であるシスイ。
その近くの平原を、私といつもパーティを組んでいる青年のプレイヤーは歩いていた。
名前はリック。
狼人間になったりできる固有魔術を持っている、このWOAでは珍しい前衛特化のプレイヤーだ。
「……今年も終わりか。色々あったな」
「そだね。まさか私達が代表として戦う事になるとはね」
「本当、何が起こるか分からねぇもんだな」
代表。
個人間のいざこざではなく、気が付けば国同士のいざこざに巻き込まれていた私達は、そこで不思議な知り合いと共に戦う事となった。
1試合ごとは短かったものの、それでも長く……それでいて当人達の思惑もぶつかり合った試合ではあったのだ。
その後、知り合いの1人がゲームを引退しその使い魔が1体、勝手にゲーム内を動き回るという……ある種バグではないか?と思うくらいにはおかしな状況にはなっているのだが。
「クロエさん、元気かしら」
「元気だろうさ。……というか、この前一緒にニュースみて噴き出しただろ」
「あぁ、アレね。ほぼリアルとゲーム内で容姿が変わらなかったからびっくりしたわ」
試合が終わり、それぞれが解散した後しばらく。
私とリックはリアルの方で一緒に勉強をしていた時の事だ。
テレビを付けてBGM代わりにしていると、不意にどこか聞いた事のある声が流れ出した。
なんだ?と思いつつテレビの方を見て見れば……どこかで見たような、というか。最近まで話したり一緒に戦ったりしてきた仲間であるクロエの姿がそこにはあった。
姿が小さかったため、少なくとも自分たちと同じくらいの年齢だろうと思っていた彼女は、実は成人を迎えており。
それに加え、ニュースに取り上げられるほどに世界から注目されるものを、世の中に作り出した。
「リックはどうするの?FiCだっけ?」
「あぁ、クロエさんが発表したゲームだな?俺は……そうだな、一応やるとは思う。そっちは?」
「私もそうね。……こっちをどうするのかって所ではあるのだけど」
「そうなんだよなぁー……」
彼女が発表したのはあるVRMMOだった。
その名前はFestival in Crime。現時点では犯罪祭典などとユーザーの中では呼ばれている作品だ。
それだけであったならここまで話題にはなっていなかっただろう。
そのゲームに使われている技術が問題なのだ。
「世界最高のAI技術を云々~って話だっけ?凄いわよね」
「らしいな。名前が名前でクロエさんらしいって思ったけど」
「名前、『グリンゴッツ』だもんねぇ……気に入ってたのね。本当に」
学習し、そしてそれを結果として反映させていく。
これを繰り返し行うAIとは違い、『グリンゴッツ』はそのAI自体が感情とでもいうべきものを持っている。
そう、感情だ。
道具として使う場合、持たせてはいけない感情を持っているのだ。
「……まぁ、アレ。俺達みたいな知り合いなら全員気付くと思うけどな」
「そのまんま、というか。感情があるのってそういう事でしょう?おかしいのはWOAよね」
「そうだなぁ……。しかし、AIというか使い魔本体をそのままゲーム外で使役するとはな」
グリンゴッツは、元々クロエの操っていた傀儡から派生した、ぬいぐるみ型の身体をもったAIだ。
その能力はクロエの支援という形で制限されていたものの、それでもAIという人間とは違う処理速度や反応から、十分に脅威となりえる存在だった。
いつの間にか私達の前から姿を消し、しかしながら各国で色々な意味で暴れまわっているという噂を聞いていたここ数ヶ月ではあったものの、気が付けば現実にまで出張していたのだ。
驚かないわけがない。
「多分赤ずきんさん辺りじゃない?あの人なら色々知ってそうだし」
「確かに。それにアレか。このゲームには写真に干渉して現象を引き起こす固有だったりがあるからな。……そういう、現実にAIやゲーム内のデータを持ち出すことが出来る固有もあるのかもしれない」
「実体化は出来ないにしても、データとしてなら可能……みたいなやつね。あるとは思うけど、それこそグリンゴッツみたいなAIとかじゃないと意味ないわねぇ」
「スクショなんかはVR機器に保存されるからなぁ」
実際の話、現実に持ち出せるといっても……何が出来るかと言えば何もできないものの方が多いだろう。
現実で固有魔術を扱うことはできないだろうし、汎用魔術もそれは同じだ。
使い魔であるゴーレムなどを持ち出したとしても、グリンゴッツのようなAIが中に入ってるのならば兎も角。こちらから命令を出さなければ動かないのでは、既存の技術とそう変わらない。
モンスターテイマー系のプレイヤーならば……モンスターを現実に持ち出すことも考えられるだろうが、それはそれでまた別だろう。
モンスターが役に立つのはあくまで戦闘がある世界だ。現実の電脳空間では青色の右手が砲な戦士はいないし、黄色いヘルメットを被ったウイルスも存在しないのだ。
「っとと、話したら着いちゃったわね」
「ここがそうか?デカい木しかねぇぞ?」
「それであってるわ。これがあの人の固有の1つだから。……すいませーん!クリスとリック、到着しましたー!」
平原にポツンと立っている大樹。
その下までたどり着いた私は、それに向かって話しかける。するとだ。
『お、着いたかい?少し待ってくれ、すぐに開ける』
男性の声で、そう返ってきた。
瞬間、穴などなかった大樹の横に人1人分くらいの縦穴が開き、そこを見て見れば下へと続く階段が存在していた。
中に入れ、ということだろう。
「……すげぇな」
「でしょう?私も最初聞いた時は驚いたわ」
中に入っていけば、どうやっているのか。
階段の横には私達が通るたびに灯りが付くランタンや、それ以外にも……そもそもここまでの空間がどこにあったのかという疑問が浮いては消えるを繰り返す。
が、それを考えても仕方ない。これが固有魔術によって引き起こされる現象なのだから。
階段を降り切り、そこにあった扉を開くと。
中には数人の男女が既にいた。
「お、着たねぇ!いらっしゃい!」
「あら、彼女たちで最後かしら?」
「そうですね。では始めましょうか」
既に座って話していた女性3人……赤ずきん、ハロウ、そして灰被りがそう言い。
座って既に酒らしきものを飲んでいるガビーロールはいつものように笑い。
この部屋の主である男性……テセウスは、私達を迎え入れた後こう言った。
「では!私の固有内という場所ではありますが!忘年会を開始しましょう!かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
宴は始まる。
主人公が消えたこの世界は、今日も平和に回っている。
もしよければ、こちら2作もどうぞ
Festival in Crime -犯罪の祭典-(https://ncode.syosetu.com/n6993fp/)
赤ずきんは童話の世界で今日も征く(https://ncode.syosetu.com/n9388fv/)