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この殺伐とした魔術世界で  作者: 柿の種
第三章・後半
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宴の後に


■クロエ視点


打ち上げの後。現在はグリンゴッツと共に夜の街を歩いていた。

私のした話に驚く者、察していた者、そして止めようとする者と様々な反応が返ってきたのを思い出す。

特にハロウの反応は珍しいと言っていいほどで。


「……まさか泣かれるとはなぁ」

『それだけ彼女にとって、仲間というのは大事なものだったんだろう』

「そうなのかもねぇ……」


正直な話、誰に何と言われようと考えを改めるつもりはなく。

それが分かっていたのか、赤ずきんや灰被りからは「暫く寂しくなるねぇ……いつでも帰っておいで」という言葉を貰っていた。

しんみりした雰囲気はあまり好きではないため、割とふざけてしまったが……まぁそれもそれでよかっただろう。


一番の問題はグリンゴッツの事だ。


彼は成長したために、考える力を手に入れてしまった私の傀儡。

戦闘をする場合や作戦立案の時だったりは話合う事が出来るために便利だったりするのだが……今はその考える力が仇となっているのだ。


「グリンゴッツはどうする?」

『……どうする、とは?』

「いや、私長い時間こっちには来ないと思うから……それこそ、このゲームが終わるまで帰ってこないかもだし。それにグリンゴッツはやろうと思えば私がいなくても自立行動くらいはできるんでしょ?」

『成程……まぁ、出来るが』

「だったら、割と自由に動けるように私の持ってる魔術全部持っていってもらってもいいなぁとか考えてるけど……」

『……』


グリンゴッツは私の言葉を受けて、考えるように黙り込んでしまった。

事実、彼が自由に動けるのならこの世界で動いてもらった方がいいのだ。

私がデスペナでインしてなかった時も、彼は独自に考え行動していたらしい。

それを知っているからこその提案だった。


私の戦い方を知っている。

尚且つ、知り合いに大きいサバトのリーダーや、それこそ決闘王者なんて者らもいる。

そこらのプレイヤーよりも人脈自体は広いのではないだろうか。


「まぁ、どうするかはグリンゴッツに任せるよ。ただ、そうだね。明日には答えをもらえると助かるかな」

『……分かった』




暫くした後。私とグリンゴッツはいつも泊っている宿へたどり着いた。

今日は夜だというのに静かで。

だからだろうか。癖で薄く展開していた【霧海】に何かこちらへと近づいてくるのが分かった。


ハンドサインを使い、グリンゴッツへと警戒を促した後。

十分に警戒しつつ、【変異】によって何本か土の槍を作り出し迎撃準備を整えていく。

……面倒だなぁ。


「誰です?知り合いなら止まってくれるとありがたいんですけど」


当然答えがあるはずもなく。動きも止まらない。

私は【チャック】をそのこちらへと向かって動く者と私の近くの2点に展開し、【異次元連結】によって口を繋げ。

その口に向かって作っておいた土の槍を撃ち込んだ。


しかし、それを避けるわけでもなく。

その動いていた者に槍が何本も突き刺さっていく。

指を鳴らし、ダメ押しとばかりに爆破させる。

……反撃がない?いや、これは――


突然、上から何かが落ちてくる……否。降りてくる反応があり。

そちらをみれば。

白衣を着た、彼女がいた。


「やぁ、先程ぶりだ。殺しに来たぜ」

「どうも。昨日の今日とかそういうレベルじゃなく即断なのは好感が持てますよ」

「ありがとう」


リセットボタン。

彼女が意図したものかは分からないが、彼女と初めて戦ったあの時と状況は似ていた。

但し、あの時とは色々と違うものがある。

グリンゴッツの存在をはじめ、固有魔術や汎用魔術も増えた。

ある意味では、あの時の私からどこまで成長できたのか。それを認識する良い機会だろう。


「じゃあ殺ろうか。【錬金-等価交換】【生成-儀礼剣】」

「おや、接近戦です?いいんですか?」

「いいんだよ、これで」


グリンゴッツに手を出さないように指示をした後に。

私は短剣を、リセットボタンは創り出した儀礼剣を構える。

思考発動によって、自身の体に強化を施しながら。

彼女も目には見えない範囲で、何か強化を施しているのだろう。


夜の街。

私の作りだしている濃い霧。そして、虫の鳴く音。

息を殺し、私とリセットボタンは向かい合う。

彼女の顔を見て、そして目があった瞬間。

走り出した。


彼女はそんな私を待つように、薄く笑いながら剣を横に振る。

それを【遠隔装作】によって作り出した剣をぶつけて防御しつつ。

私は彼女の懐へとたどり着き、人体の急所にあたる腎臓辺りを狙って短剣を突き出した。


ずぶり、という感触と共に彼女の体へと短剣が入っていった。

そして油断なく。短剣を横へと回すように捩じった後に引き抜いた。

ダメ押しといわんばかりに、【遠隔装作】によって作り出した剣を4本ほど突き刺してから彼女から離れた。


「……手、抜きましたね?」

「何のことやら。容赦ないねぇ……」

「そりゃ殺し合いですから。……では、さよならですね」

「そうだね。さよならだ……良い世界で過ごすんだよ」

「あは、それはちょっと約束できないかもですね」


そう言って、彼女の体は光へと変わっていく。

短い戦闘。短い言葉。

それだけだったが、それでも彼女の性格を考えるに。

これが彼女の中での精いっぱいだったのだろうと思う。


「……グリンゴッツ」

『帰るのか?』

「うん。帰ろう」


そうして、私はグリンゴッツと共に宿の部屋へと戻っていった。


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