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この殺伐とした魔術世界で  作者: 柿の種
第三章・後半
238/242

第五試合 下


■ハロウ視点


全てを見切られる、そんなチートみたいな派生魔術を相手にどう戦えば良いのか。

答えは簡単。

攻撃を処理するのはハル自身なのだから、そちらの処理を上回る密度で攻撃すれば良いだけのこと。


更にもう一つ、考えられる事はある。

魔術における名前という記号は、常人が思う以上に重大な役割を持つものだったりもする。

例えば、名前を付けたからこそ魔力の方向性が決まったりだとか。

私の固有魔術だって、名前が名前だからこそバーバ・ヤーガ由来の派生ばかりが発現しているのではないだろうか。派生も派生で、名前で効果が分かりやすいものも多数ある。

では、今回の場合はどうだろうか。


【二刀開眼】という名前。

そこから考えられるもの。

それは、


「……それ、正確には出せないんじゃなくて刀が二振りじゃないと発動しないものだったり?」

「はッどうだろうな!」


十分に私から離れた位置で、【呪形】を風か何かの魔術によって中距離から爆破させながらハルは威勢よく吠える。

そのまま、近接系魔術師御用達の【操風】でも使ったのか風のように早い速度でこちらとの距離を詰めにかかってきた。

ただ、私も私でそれを黙ってみているほど馬鹿ではない。


「【呪形】【多重】発動」


以前の陣取り戦争でも見せた、【多重起動文】を使い。

純後衛である私の有り余る魔力を使い6体の【呪形】を作りだし迎撃に向かわせる。

その裏で、もう一つ。


「【二つ。彼らに話しかけた声は次第に増えてゆく】」

「クソ、発動制限がないタイプだったか……!!」


私自身を三人に増やすため、もう一度【頼るならば三人に】の詠唱を開始した。

こちらへ向かってくる速度を上げたハルに対し、【呪形】6体を迎撃に向かわせ私は悠々と詠唱を続ける。


「【視ると老婆の身体が三つへと増えていくではないか】」


再び私の体が3つへと分かれ、視界も一人称から俯瞰するような視点に切り替わる。

ここまでが準備。

ここからがやりたかった事の本番だ。


「【一つ、匣に詰めたなら】」


もう1つの詠唱を開始する。

瞬間、1人の私が光となって消えていった。

ハルの攻撃ではない。今から発動する魔術のコストとして使われたのだ。


しかし、ハルは詠唱が聞こえたのか目を見開いた。

いや、もしかしたら【二刀開眼】の効果によって私の使おうとしている魔術が分かったのかもしれない。

これまで以上に真剣で、どことなく焦ったような表情になりながら彼は何とかこちらへと近づこうとして【呪い】になるのも躊躇わずに【呪形】を斬り捨てていく。


「【二つ、呪いと共に詰めたなら】」


詠唱を進めると、もう1人の私も光となって消えていく。

それと同時、効果が切れたのか視点が一人称視点へと切り替わった。


「【今宵集めし贄は三つ。肉を、血を。途絶えさせるこの力】」


白骨化している腕を無理やりに動かしながら、何とか腰についている呪い瓶を手に掴み。

それをハルの方へと放り投げる。

思っていた以上にガタガタだったのか、呪い瓶と一緒に取れてしまった私の腕の骨も飛んでいくが些細な事だろう。


「【呪いの渦はその魂を犯し、そして喰らい尽くすだろう】……【サンポウ】発動」


詠唱を終えた瞬間、ハルの目の前まで飛んできていた呪い瓶はどす黒い渦3つへと姿を変える。

呪術【コトリバコ】。その3段階目の【サンポウ】だ。

単純に数が増えただけ、それだけでも厄介だがこれでもきちんと強化されている。


「さぁ、追いかけっこの始まりね」

「クソッ!」


恐らく彼にも奥の手はあるのだろう。

それこそ、ここが私と彼の2人しか見ていない空間だったなら容赦なく使っていたんじゃあないだろうか。

しかしここは決闘場。私達にその存在は確認できないが、戦っている姿は多くのプレイヤーに見られているのだ。


声は届かないものの、動作などからバレてしまうものもある。

特にハルのような近接を中心に戦闘を組み立てていくタイプの魔術師にとっては、そういった特定の動作を行う事自体避けたいのだろう。

しかし、彼も彼でそういった場で戦うのは初めてではないはず。

だからこそ、1つくらいは既に既知の存在となっている技や魔術を持っているはずなのだ。

それこそ【空刀】以外にも。


「はっ……?」


そんな事を考えていたからだろうか。

彼が己の目を刀で斬った瞬間に私の思考が一時的に停止してしまったのは。

瞬間、彼の体から溢れるほどの魔力が放出され始める。

……ッ!自分の目を生贄として捧げたってこと?!


このゲームは、基本的に傷ついた場所は動かしにくくなったり……それこそ欠損なんかもあったりする。

クロエの腕なんかがそうだろう。だからこそ、故意ではあるものの目を傷つけたなら、何も見えなくなる。

それがどれほどダメージとして少ないものでもだ。

そしてそれをやる意味。それは……、


「【心、常に、道を離れず。見えずとも、振るう先は剣が知っている】」


詠唱。それも私が聞いたことのないもの。

そして彼から放出されていた魔力が刀に集まっていくのを見て、【サンポウ】を操りそれを阻止しようとする、が。

不可視の何かに止められた。

このゲームにおいて、何物も飲み込む呪いの渦と化している【コトリバコ】が何かに止められたのだ。


「【一理に達すれば、万法に通ず。我、刀と共にその道へと至らんとする者】」


見れば、魔力の他に何かが彼の体から出ているのが分かった。

否、出ているというのは正確ではなく。彼の体の内から、ソレが溢れ出ているといった方が正しいだろう。

まるで、刀のような鋭いなにか。それが出てきている。

実体のないはずのそれは、ハルの体へと【サンポウ】が到達する前に食い止めていた。


「うっわ、そんなのってあり?……とりあえず【蠱龍】、周囲に待機」

「【我、事において、後悔せず。この一太刀の為だけに、全て捨てようとも】」


不可視の何かに触れないように、彼の周囲に【蠱龍】を3体ほど漂わせて待機させておく。

それを知ってか知らずか。

ハルは持っていた刀の片方を、脇に構えニヤリと笑う。


「見えちゃあいねぇが!それで良い!観客もそろそろ飽きてきてんだろ!?これで勝負をつけようや!――【虎振】」

「ッ!」


咄嗟に障壁を3重ほど重ねるように展開し。

ハルは目から血を流しつつ、距離を気にせず刀を横に振るう。


瞬間、ガラスの割れるような音と共に視界が横にずれる。

ずるりと、私の頭だけが落ちていく。それに合わせるようにハルの近くに待機させていた【蠱龍】達の首もずれていく。

それに加え、ハルの体から血が噴き出ているのが分かるが……この位置からでは何もできないだろう。

視界が暗くなっていき、そして。

私の体は死へと向かっていく。




「手ごたえがあった……ってぇことは、だ。忘れてねぇぞ?」

「あら、そう?でも貴方……忘れてるようね?」

「あ?」


私は生き返る。

派生魔術の効果によっての蘇生のため、ズルでもチートでもなく。きちんとデメリットもある死に戻り(リスタート)


二度目だからか、それを予想していた彼はそのまま油断なく周囲を警戒していたものの。

1つ忘れている事がある。それは、


「これは正々堂々真正面からの勝負ではないのよ」


指を鳴らす。瞬間、ハルの足元に穴が開く。

そう、【範囲変異】による落とし穴。一度避けられたものではあるものの……あの時は【二刀開眼】によって見破られていたからこそ。

逆に気を張っている今だからこそ通じると考えた戦法。


「あ?このクソがぁぁぁぁぁぁ……!」

「ごめんなさいねぇ。最近よく見てる子がこういう戦い方するのよ。学ばせてもらってるわ」


そのまま、中へと【呪塊】を液状で流し込み。

穴に蓋をすれば完了だ。彼女は毒の液体を使っていたが私はそんなものを出せる固有は持っていないため……仕方ない。

暫くして、戦闘終了を告げるブザーがなった。



この光景を見て、周囲の知り合い達からジト目で見られてしまった狼耳フードの少女がいたのはまた別の話。



第五試合、決着。

勝者――ハロウ。

決闘勝敗……3対2によってドミネ側の勝利。


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