第四試合 Ⅲ
この世界では、魔術に限って言えば無限にも近い可能性で自分のやりたい事が出来る。
『英雄として讃えられたい』
……やろうと思い、成し遂げる気力があるならば出来るだろう。
『生産勢として有名になりたい』
……それもまた、成し遂げる気力さえあるのならば出来るだろう。
『研究をし、新しい術を生み出したい』
……現状発見できてはいないが、そういう要素もあるかもしれない。
普通のプレイヤーならば、このゲームをやる理由としてはこんなものだろう。
他にも友人に勧められてだとか、なんとなくだとか。そういった理由もあるかもしれない。
俺は、英雄にも職人にも研究者にもなりたくはないし。
そもそもゲームをオススメしてくれる友人だっていやしない。なんとなくやっているわけでもない。
俺がこのゲームをやる理由。
それは――
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■ユースティティア視点
森の中。
俺は剣にある程度身を任せるようにして前へ進んで行く。
第四試合の出場選手として選出されたのは良いが、正直うちのトップが考えていることは全く持って分からない。
俺よりももっと強い奴はいるだろう。それこそ、【童話語り】には負けたものの、アラジンの方が強力な固有魔術を持っている。
「……」
草むらから飛び出した狼のような形をしたホムンクルスを剣で一閃。
それだけで、相手は動かなくなる。
剣を起動状態にしているからこその、身体強化。そのおかげか、普段ならば数回は切りつけなければ殺せないであろうホムンクルスも一回切りつけるだけで死んでいく。
呪われた聖剣シリーズ。
普通のプレイヤーならば使わないほどに、デメリットが致命的と言える武器シリーズ。
しかしながら、現在の俺にそのデメリットの影響は薄い。
「便利なもんだな……【寛容な心は憤怒によって彩られる】。普通なら絶対使わねぇが」
固有魔術【寛容な心は憤怒によって彩られる】。
かなり限定的な効果を持った補助系の固有だ。
『呪いを持ったアイテムのデメリットを軽減する』。今の俺にはぴったりすぎるほどに丁度いい効果だが、もちろんその代償も存在する。
それが、
「HP50パー減ってデメリットとしては重すぎるよな。普通に戦闘向きじゃねぇ」
HPの半分が、その固有魔術の発動中常時減少した状態となるのだ。
これが後方から攻撃する術に長けている魔術師だったり、暗殺などの隠密に関する技能に長けている者ならばまた違っただろうが、生憎と俺のスタイルは近距離戦闘型。
相手に近寄る関係上、出来る限りの身を護る術は身に付けているが……それでも受けてしまう攻撃もある。
だからこそ、受けられる攻撃の数が減ってしまうこの固有魔術を使う場面は限りなく少なかった。
ただ、今回だけは事情が違う。
相手が1人。尚且つ、遮蔽として使える木が大量にある。
ある程度身体の自由が利かずとも、咄嗟に無理矢理にでも遮蔽へと身を隠すことも可能だ。
「……?今度は……ッ!」
そんなことを考えながら、相手のいるであろう方向へと歩いていると。
正面から9体の白い剣を持った人型のホムンクルスが隊列を組んで行進してきた。
そして俺を見つけた瞬間、剣をこちらへと構え襲い掛かってきた。
「おいおい、今度は複数体かよ。魔力温存とかしないタイプか?」
切りかかってきた中の1体を切り捨てつつ、他の攻撃を【変異】によって壁を作り防御する。
そこまで硬くはない土の壁だが、それでも一撃防げる程度には壁としての役割を持ってくれる。
そしてそのままの流れで、また1体もう1体と手に持つ剣で切り、土へと還していく。
1体1体の戦闘力はそこまで高くないため、ほぼほぼ作業のようなものだ。
背後や死角からの攻撃も、【変異】による最低限の防御によって防げる程度のもの。
……これは、時間稼ぎか?流石にこれで十分だと思われてんなら舐められすぎだな。
恐らく、準備が必要なものでもあるのだろう。
ホムンクルス使いならば、巨大なホムンクルスでも創っている可能性もある。
固有魔術で生み出している可能性もあるが、それは考えない。
千差万別。同じ固有でも使う術師が違うならば違う性能へと進化していくのがこの世界での固有魔術。
その為、考えるだけ無駄。
実際に見ないことには考察の材料にすらなりえないのだ。
そんなことを考えていたら、最後の1体が動かなくなり地面へと消えていった。
「……というか、やっぱこれ場所バレてんな。上の方にもホムンクルスか何かが居たか?」
索敵にも固有魔術を使っている関係上、その範囲から外れてしまうモノに対しては決定的に弱くなってしまう。
俺が使っているのは【地の婦人】。
自身から一定範囲の地面に触れているモノの位置を知らせてくれる固有魔術だ。
これを使っている関係上、空中に浮いているモノに対しての索敵がどうしても薄くなってしまう。
……これが終わったら本格的に空中用の索敵も考えてみるか。
頭を掻きつつ、空へと目を向けた瞬間。
俺の視界には巨大な白い竜がこちらへと向かってきているのが発見出来てしまった。
「偽モンとはいえ、竜退治とか……流石に面倒がすぎるぞ!?」
そのままの勢いで、竜型のホムンクルスは炎を吐く。
ドラゴンブレスの再現として実装した機能なのだろう。流石に【変異】だけでは防げるものではなく、そもそもの話、周囲にはそれを防げるような丁度いいモノもなかった。
辺りが火に包まれる。