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この殺伐とした魔術世界で  作者: 柿の種
第三章・後半
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第四試合 Ⅰ


■クロエ視点


第四試合が開始した。

観戦ウィンドウに映るのは、鬱蒼とした森の中。

画面の中心に先ほど転送されて行ったRTBNが表示される。


転送された後もフードを被ったまま。

身体のラインすら分からないために性別すら分からない。


そんなリアルでいたら通報確定のプレイヤーは、懐から何やら薬のような物が入った試験管を取り出し地面に叩きつける。


「あれは……ホムンクルス?」


叩きつけられた試験管は割れ、その拍子に地面へとブチまけられた薬は染み込んでいかず、白く変色しぶくぶくと盛り上がってある形となる。


それは狼の形をしていた。

目にあたる部分はなく、のっぺらぼうのようだが、自身を生み出した者の位置を分かっているのか、そちらへと向き直った。


RTBNはその狼型ホムンクルスの頭を一撫でした後、何かを命じ森へと放った。

恐らくは索敵の代わりなのだろう。


「赤ずきんさん」

「ん?どうしたんだい?」

「あの今出てるRTBNさんってどうやって選ばれたのかなって。ほら、事前説明の時ハロウさんが言ってたじゃないですか。『私と赤ずきん以外は指名されての出場』とかなんとか」

「あー……うん、これくらいなら言ってもいいのかな。あの子はハロウが指名したんだよ。是非出場してほしいってね」


小さく「あのコミュ障が成長したもんだ」と付け加え、赤ずきんは笑う。

礼を言い観戦へと戻る。

……いや、気のせいかな……?

どうしても知り合いが脳裏にチラつくが、そんなことはないだろうと思い、気を取り直しウィンドウへと集中する。

彼女はこの国には今居ないはずなのだから。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



■RTBN?視点


森の中。

ゲームの中だからか、虫予防をする必要はなくジメジメもしていないため日陰の多い快適な環境だ。

ローブを脱ぐ必要が省けて助かった。

普通なら、本でも持ってきてゆっくりと読書タイムにでもしたいが、そんな願いは叶わない。


「んー……ウルフ2体追加」


この一見私以外には私の放ったホムンクルスくらいしか居なさそうな森の中には、もう1人こちらの命を狙う相手が存在している。


それを打倒……端的に言えば殺さない限りは平穏は訪れない。

……なんで話に乗っちゃったんだろ。私馬鹿か。


護衛として人型のホムンクルスを3体ほど自分の周囲に生み出しつつ、私はため息を吐く。

元々はこちら側……ドミネ側で参戦する気もなかった戦争。


言ってしまえば蚊帳の外に居た私を、ハロウは突然引っ張り込んだ。

彼女曰く、知り合いが他に居なかったとの事だが……決闘王者に知り合いが居なかったら私はどうなってしまうのだろうか。


「……ッ!ウルフ1体消滅。方角は……南西か」


イジけていれば、突如狼型ホムンクルスの1体と繋がった魔力の線が切れ消滅したのを感じた。

見つけた時用に命令しておいた行動をしていないということは、恐らく先に見つかり倒されたのだろう。

この時点で、相手に索敵系の魔術、高威力の魔術もしくは固有が存在する事が分かった。


慌てずに放っていた狼型ホムンクルスを南西の方向へと向かわせつつ、新たに鳥型ホムンクルスを数体生み出し空へと放つ。

相手が対空攻撃を持っているかの確認だ。

それと同時に、自らの周囲を【範囲変異】により変形していく。

簡易的な拠点作りだ。


机に椅子、防衛用の壁に加え、いざとなった時用の抜け穴に落とし穴。

それらが出来てから私は土で出来た椅子へと腰掛け、更に試験管を取り出して準備を進めていく。

赤い薬品の入った試験管。

それと青い薬品の入った試験管だ。


それら2つの薬品を新たに取り出した空のフラスコの中で混ぜ合わせ、魔術を行使する。


「【錬金-生命誕生-合成】」


錬金魔術【生命誕生】。

汎用魔術の1つであり、効果としては触媒からホムンクルスを作り出すだけの魔術だ。

但し、この【生命誕生】を基礎としてホムンクルス関係の魔術は派生していく。


例えば今使った【合成】はといえば、触媒と触媒を混ぜ合わせる事により一昔前のモンスター育成ゲームのように、ホムンクルス同士を合成することが出来る。

出来上がりを見てみない事にはどう【合成】されたかは分からないが、基本的にはキメラのようなものだ。


こうやって派生した魔術を組み合わせ、自分のとっておきを作っていくのがホムンクルス関係のやり込み要素だった。

やろうと思えば、思い描いた通りのホムンクルスが出来上がる。


「よし、発見。接近戦型かな……空からのには気付いてないか」


そんなことを考えていると、鳥型ホムンクルスが相手を発見したようで。

視界を共有してみれば、剣を持った学生服の青年がまっすぐこちらへと向かって来ているのが分かった。


……地面に触れてる相手に対して有効な索敵?こっちが固有か。

まだまだ相手の情報は足りないが、こちらに向かって来ていると言うことは、位置が既にバレているということ。

ならば迎え撃つしかないだろう。


「よし、じゃあ折角だし遊びで作った『軍隊』を使おう」


そう言って、懐から黄色の薬品が入ったフラスコを取り出し防衛用に作った壁の外へと放り投げる。


すると次の瞬間。

ボコボコボコ!と普段ホムンクルスを生み出す時よりも大きな音が聞こえたかと思えば、大量の足音が聞こえ始める。


「よし、揃ったかな。敵は南西にあり!出撃!」


私の掛け声(命令)が終わると同時、再び大量の足音が聞こえ始め、南西の方向へ遠ざかっていく。

ホムンクルスの研究中、一度に大量のホムンクルスを生み出せればと考え半ば遊びで作った『軍隊』と作名のホムンクルス。

9体の少し小さい人型ホムンクルスが生み出される一度に数が必要な時に使いたい作品だ。


但しその分魔力消費も通常よりも多く、1体1体の性能自体も普通のホムンクルスより劣るという、メリットよりもデメリットの方が上回った作品だ。

しかしこういう時の時間稼ぎには使える。

最低でも後2種類の【合成】ホムンクルスを作っておきたいのだ。


こうして私の……リセット(ReseT)ボタン(ButtoN)の戦いが始まった。


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