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この殺伐とした魔術世界で  作者: 柿の種
第三章・後半

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229/242

第三試合 11

いつもより長いです。


最近、作業BGMとしてVtuberのシアシスさんを流してるんですが、いいぞ……


■赤ずきん視点


灰被りやガビーロールの固有魔術にあったように、私の固有魔術である【童話語り】にも一種の到達点と言ってもいい派生魔術が存在する。


それらは、それぞれの固有の持ち合わせている特徴を特化させたようなものとなる。


灰被りの固有ならば、対象を灰へ変えること。

ガビーロールならば、見てわかるように何かを創り上げることだろう。

ならば、私の【童話語り】の特徴とも言える能力は一体何か。


簡単だ。

物語のキャラクター達、彼らの力を借りることこそが特徴。アイデンティティ。

それこそが【童話語り】。


周囲を見渡せば、赤ずきんの銃の対策か普通の人型ゴーレムに加え、大きな盾のようなものを持ったゴーレムも出現している。

まるで狩りのように私たちをぐるりと囲むゴーレム達と共に、ガビーロールの巨大な土と火の拳が空から降ってきていた。


とはいえ、それで絶体絶命になるわけもなく。

私が咄嗟に張った障壁により勢いが削がれ、赤ずきんが銃弾を何発も入れることによって砕き無力化していた。


「【私は物語を語る者】、【筆者の描いた命を伝え広める者】」


ガビーロールからの攻撃には障壁魔術を。

それ以外を赤ずきんに任せつつ、私は詠唱を始める。

歌うように滑らかに。遠くまで届くよう大きく。


「【これから行うは私の役割を超えた愚行】、【彼らと取って代わり主張する】」

『エンタメとして見るなら止めたくはないが!勝負は勝負だ!【創物(クリエイト)】!』


ガビーロールは自らの攻撃が届かないと考えたのか、私達の周囲にいる盾持ちのゴーレム……その盾の一部を手や触手のようにしてこちらの動きを止めようとする。

しかし、それで止まるような安い脇役は此処に呼んでいない。


隣の少女に視線を投げれば、また一つ溜息を吐いた後。

彼女の持つマスケット銃が光の粒子となって消え、新たに二丁の拳銃に変わる。

威力は下がるものの、手数や取り回しを重視したのだろう。

先ほどよりも数の多くなった発砲音を背景に、私は次々と潰されていくゴーレムたちを見ながら口を動かした。


「【語り部は舞台へ上がり】、【物語を進行させる歯車の一つへと変貌するのだと】」


撃ち抜かれながらもじりじりと近づいてきているゴーレム達を見ながら、不敵に笑う。

漫画や小説のキャラクター、それも主人公やそのライバルたちはピンチに陥った時でも笑って自身を見失わなかった。

私は彼らのように命を懸けているわけじゃないが……、


「あは、ここは彼らに習った方が画になるだろう?――【大根(メアリー)役者(・スー)】開演だ」


その瞬間。

私の隣に立っていた少女はその全てが光の粒子へと変化する。

光の粒子はそのまま消えず、私の身体の周囲へと集まってくる。


詠唱から一転、棒立ちになった私を見て好機と思ったのか。

一斉に周囲のゴーレムたちが盾を捨て殴りかかってくるのと同時に、上からガビーロールの巨大な足が迫ってくる。避けれなければ地面の染みになってしまうだろう。


そんなことを考えていれば。

逃げ場がどこにもなくなっていることに気付いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



■ガビーロール視点


……獲った!

私の足に何かを踏みつけた感触が伝わる。障壁や銃で撃たれた時とはまた違う感触で、ダメージが通ったのであろうものだった。

それと同時に土埃が宙を舞い、周囲のゴーレムたちをも巻き込んで地面が割れていく。


『何をしたかは知らないけど、護衛を消すのは早かったんじゃないかい?……灰被り、降参を――』

「流石に相手の生死を確かめる前に勝った負けたを判定するのは急ぎ過ぎだろう?なぁ、ガビーロール?」

『――は?』


声が、聞こえた。

先ほど踏みつぶしたはずの女の声が聞こえた。

見れば、土埃がどこからか吹いた風によって晴れていく。


プレイヤーがデスぺナになった時、アバターが消えるエフェクトである光の粒子はそこにはなく。

そこには一人の女が、地面を割るほどの重量を持つ私の足を耐えている姿だけがあった。


火と土によって創り出した私の今の身体を支えるのは根気が必要というレベルの話ではない。

触れれば火傷レベルではなく燃え、圧倒的な質量によって燃え尽きる前に擦り潰されるはず(・・)なのだ。


なのに。

なのにこの女は生きている。その上で言葉まで喋りながら耐えている。


『赤ずきん……!』

「流石に間に合ってよかったと思ってるよ。君の言うように彼女を消すのは早かったかもしれないなぁ」

『どうして支えられている!?どうして耐えられている!?強化魔術を使ってもそこまでの力は出ないだろう!!』

「おいおい仮にも魔術師が『どうして』なんて人に聞くんじゃないよ。分からないからこそ探求する。そうだろう?……ただまぁ、一つ言うならそうだね」


力を込め下へ下へと押し込んでいるはずの足が、少しずつ上へ持ち上がっていく。


「何時だってヒーローは最後にゃ勝つもんなんだぜ?」

『ふざけっ……!!』


一瞬の浮遊感と共に、強烈な衝撃が足へと走った。

突然のソレに対し、残った足一本だけでは踏ん張ることも出来ず、私の身体は倒れていく。

倒れる際、顔だけでもと視線を無理矢理赤ずきんの方へと向ければ彼女の顔と共に、服装や持っている物が変わっているのに気づいた。


彼女のトレードマークのような赤い頭巾は何処にもなく。

鎧すらも着けていない。

代わりに深緑色の帽子を被り、それと同じ色の外套を纏っている。

手には【童話語り】はなく、代わりに先ほど現れた少女の持っていたマスケット銃のような銃を持っていた。恐らく先ほどの衝撃の正体はアレによる銃撃だろう。


総合して言うのなら。

『赤ずきん』ではなく、同じ童話の中に登場する『狩人』といった方が良いような服装となっていた。


「声は観客には届かないからネタバレしてもいいんだけど。まぁそれはつまらないだろう?ヒントは沢山あるぜ?」

『くっ……!』


一瞬呆けてしまったが、今はまだ戦闘中なのだ。

だらんと下げていた銃をこちらの頭に狙いをつけようとするのを見ながら、私は自身の身体……土と火で出来たゴーレムの身体の腹辺りから、【創物】によって頭を守るための簡易的な壁を創り出す。

……恐らく、先ほどから撃ってきてる弾丸の正体は魔力の塊。一度何かに当たれば霧散するはず……!

そしてそれと同時に身体を起こそうとする。

流石に倒れたままでは分が悪い。


だが次の瞬間、起き上がろうと巨大な身体を支えていた腕の片方。

左腕が撃ち抜かれ、再びグラつき背中から倒れこんでしまった。


「流石にこんな状況で頭は狙わないさ。知ってるかい?獲物を追い込むには徹底して弱らせた方が一番いいのさ」

『知るかよそんなことッ!』


ならば、と身体を起こすことを諦め、ゴーレムたちを簡易的に大量に創造し、数で押すことにする。

最初とやっていることは変わらないが、しかしながら1人の相手に対してはコレが一番使いやすく効果的な手であるのは変わらないのだ。

次いで【編み細工の(ウィッカー)人型牢獄(マン)】を最初から人型状態で呼び出し加勢させた。


「【狼よ、来れ】」


しかし、【編み細工の人型牢獄】は突如現れた巨大な人狼によって動きを止められてしまった。

それに加え、動きを止めるだけではなく肩に噛みつかれ捕食までされてしまっている。

その人狼も喰らいながら苦しんでいるため、ダメージがないわけではないだろうが、相性が悪いのは確かだろう。


『チッ……明らかに一つの派生の効果じゃないだろう!』

「いやいや、コレはコレでちゃんとした派生魔術だぜ?代償さえ支払えばこんなものさ」


魔術の代償。

それは能力を底上げするためのもっとも簡単な方法だ。

例えば灰被りの【灰の女王】なんかが一番分かりやすいだろう。

発動中自身のHPの上限が減り続けるという代償らしい代償。これによって【灰の女王】の灰化能力は底上げされ、ターゲット指定という制限はあるものの、ほぼほぼ全ての対象を灰へと変えられるほど強力な派生となっていた。


それと同じように。

私の今発動させている【祖の叡智】も代償がある派生。

ゴーレム創造系魔術以外が使えなくなる代わりに、創られるゴーレムの能力などが底上げされているのだ。


それらと似たような代償(デメリット)が彼女の使った【大根(メアリー)役者(・スー)】にはあるんだろう。

今の所らしいデメリットが発見できないが為に頭が痛いのだが。


「狼さんよ、もうちょっと頑張ってくれ?腹を裂いても君は生き残ったんだから焼けるくらいどうってことはないだろう?」

『GRRRRRR……』

「あは、なんだその恨みがましい目は。元はといえば普通に呼び出したら毎回襲ってくる君が悪いんだろう」


楽し気にそんなことを話す彼女を視界に収めつつ、私は更にゴーレムを創り出す。

大小様々なゴーレムを、それらに剣の形や槍の形……武具のような形をしたゴーレムを持たせ、一つのものとして行動させる。


魔力の温存なんてものは考えず、ここで全て出し切って気絶してまでも勝利するくらいが丁度良いと考えたのだ。

出来る限りの魔力を使い、気絶一歩手前までゴーレムを大量創造し波のように赤ずきんへと襲わせる。


問題なのは、その襲わせる対象の彼女だろう。

周囲を囲まれながらも、器用に避け、時に突っ込んできたゴーレムを盾として利用し、そして銃によって破壊する。

じりじりと距離を詰められれば、赤ずきんの周囲から突如出現した赤紫の液体によってゴーレムたちが押し流される。


『……言いたくはないが、チーターのようなものだな。ここまでくると』

「はは、チーターではないけどね。さて、それでは――」


一息。


「――終幕(おわり)にしようか」


そう赤ずきんが言った瞬間。

彼女の持つ銃の形状が変わる。

銃身の長さは変わらずに、茨のような緑色の装飾が全体的に巻き付いたのだ。


その瞬間、彼女の纏う空気が変わった……ように感じた。

その目は何処か獲物を追う狩人のようなもので。


「【狩人は幸せな最期の為に】」


その言葉を聞いた後。

気付けば私はコロッセウムへと戻ってきていた。

身体はゴーレムから元の人間の身体に戻っているようで、そこで自らが死んだのだと気付き、少し笑ってしまった。


暫くして、近くにレンが転移してきたためどうなったかは想像できた。

私達は負けたのだ。



第三試合、決着。

勝者――赤ずきん、灰被りペア。


・【大根(メアリー)役者(・スー)

コストとして自身が【童話語り】にて召喚しているキャラクターを捧げる必要がある。

その時捧げたキャラクターの登場する物語の【役割(ロール)】に応じたステータス上昇、補正がかかる。

また、物語のキャラクターを模した召喚魔術や、武具の召喚などを使えるようになる。

・デメリット

【大根役者】発動中、汎用・固有含めた他の魔術行使をすることはできない。

最大HP、MPが最大値の50%まで半減、デスペナルティになるまで元に戻ることはない。

使用時間:5分 再使用時間:リアル時間で2か月

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