第三試合 10
なんとか6月中に更新できてよかった(
■赤ずきん視点
ガビーロールとレンの話し合いというか。
痴話喧嘩のようなものを見せつけられた後、結局私とガビーロールの一騎打ちにてこの試合の勝敗を決めることになった。
といっても、彼の派生によるHPやMPの減りを考えレンが渋々引き下がった形ではあるのだが。
「さて、やろうか。本気で良いんだよね?」
『むしろ手加減されたら戦争以外で本気で戦ってもらう状況を作らないといけなくなるからやめてほしい。流石にそれは面倒だ』
「そりゃそうだ。じゃあやろうぜ。勝敗の決め方はどっちかが死ぬかでいいんだろ?」
『それ以外に何がある?』
「あは、一応の確認さ。……おーい灰被りちゃん。君まだ魔力余ってるだろう?開始の合図として何か打ち上げておくれ」
ある程度の距離を取り、ガビーロールと対峙する。
いつもの彼より巨大で燃え盛っている分、プレイヤーというよりモンスターと対峙しているといわれた方がしっくりくる。
……あんまりこういうヨーイドンで始まる戦闘ってのは得意じゃあないんだけど。
近くにレンと仲良く体育座りをしてこちらを見ていた灰被りに声を掛け、開始のゴング替わりの魔術を打ち上げてもらう。
わざわざ私が指名したのを理解してか、灰被りは苦笑しながらも殺傷力のないただ光るだけの汎用魔術を使用し、空へと打ち上げた。
その魔術はどんどん空へと昇っていき、ガビーロールの顔らしきものと同じくらいの高さまで高度をあげていく。
私は視線を地面へと向け、【童話語り】を片手にガビーロールへと語り掛ける。
「あぁ言っておくけれど」
『?』
「私は結局のところ卑怯なのが売りなのさ」
『今更何を……ッ!?』
そして打ち上げた汎用魔術は弾け、ゴングの代わりに戦闘開始の合図を告げる。
ただし、その光は強烈で一瞬ではあるものの、視界を白く塗りつぶすほどの光量があった。
視線を下へと向けていた私はまだよかったものの、ほぼほぼ視線と同じ高さでそれが弾けたガビーロールはたまったものではないだろう。
目と同じ機能を担う器官がそこにあるのならば、という話にはなるが。
思考発動によって足を中心に強化魔術を発動させつつ、すぐにこの場所から離れる。
視界が潰れているにせよ潰れてないにせよ、巨大な相手に対し足を止め対応するのは自殺志願者とそう変わらない。
そう移動した後に、私が元居た位置へ巨大なゴーレムの腕が振り下ろされる。
直撃は喰らっていないものの、それによって生じた衝撃によって私の身体は飛ばされてしまう。
幸い、このフィールドには岩のようなものはなくあったとしても土や草程度の為、どこかを打って大ダメージという事態にはならない。
「おいおいこの世界にいるのに物理かい?!」
『時に魔術よりも物理の方が都合が良い事もあるんでね』
「前の試合みた後だと何とも言えないなぁその答え!」
雨のようになって空から降ってくる土を浴びながら、私は地面を槍へと【変異】させ、わざと私が居る方向とは逆位置へと移動させてからガビーロールへと放った。
私は私で、自身の固有魔術を発動させる。
「久しぶりだけど、来てくれるかな。【童話語り- 赤ずきんより赤ずきん】」
私の小さな問いかけに対し、一陣の風が吹く。
ガビーロールによってもたらされた破壊の余波ではなく、創造の風。
魔力を含んだソレは、ある少女を形作り私の目の前へ姿を現した。
手にはワインやパンといったものが入っている籠を持ち、彼女の代名詞とも言うべき赤い頭巾を被った少女。
ある時は食われ、ある時は救われ、そしてまたある時は自ら元凶を撃ち殺す。
そんな少女が今私の眼の前へと出現した。
『……あら、ご無沙汰。こんな力もなにも持ち合わせていない娘を呼び出すなんて、いよいよ死が近いのかしら』
「あは、久々なのに饒舌だねぇ。っと、あんまり話してる時間はなさそうだ」
見れば、周囲に落ちた土が集まりゴーレムへと変化していくのが確認できた。
恐らくガビーロールの固有魔術によるものだろう。
土以外にも、草や灰被りが創った氷の茨からもゴーレムが出来ていっているために、早めに処理をしなければ数の暴力によって押しつぶされるのが目に見えている。
「どうせ銃は持っているんだろう?任せたよ」
『はぁ……私はか弱いか弱い村娘。出来ることといえば、病気のおばあさんへお見舞いに行くくらいなのに人使いが荒いわね』
「無駄口叩かなーい。こっちも色々やるのに準備が必要なのさ」
『赤ずきん』はもう一度大きく溜息を吐き出すと、物がたくさん入った籠に手を突っ込み、明らかに籠に入りきらない大きさのマスケット銃を取り出した。
ゲーム的に見るならば、アレが一種のインベントリなのだろう。プレイヤーの使うバックパックのようなものだ。
それをくるりと一回転させた後、彼女が引き金を引けば。
鋭い発砲音と共に、近づいてきていたゴーレムの1体の頭が爆発する。
薬莢は排出されず、そもそも弾が込められているのか分からないそれを用いて彼女は踊るように私の横で周囲のゴーレムたちの頭や胴を撃ち抜いていく。
おかげ様で私の魔力がゴリゴリと削られているのが、確認せずとも感覚でわかる。
あちらも時間はないのだろうが、こちらもあまり長く戦えるような状態ではないだろう。
だが、まぁ。
「……どうせここまでだらだらやってきたんだ。一気にババっと終わらせても文句は言われないだろうさ」