第三試合 9
遅れました
■赤ずきん視点
「……」
『……』
急いで向かった先に居たのは、先ほど見えた何か。
近くで見てそれが何なのか理解できた。
ガビーロールが創ったものであろうことも、それが何を材料に創られたかも。
それがあるのは別にいい。
私達の相手がゴーレム使いだというのは以前から知っていたことだし、彼が使っていた固有からあぁいった巨大なゴーレムを創り出すことが可能なのは分かっていた。
しかし、不可解な事もある。
「……なんで君ら、にらみ合ってるだけなんだい?」
『……来たね。いらっしゃい赤ずきん』
先ほどまで離れた位置からでも魔力が感じられるほどの戦いをしていた筈の灰被りとガビーロール。
その二人が、私が来るまで魔力を練りもせず。ただただ無言でお互いをにらみ合うだけだった。
「やぁ、その声からして君の固有で君自身でも素材にしたかい?ガビーロール。あと、いつもの喋り方やめたの?」
『アレはどっちかといえば虚勢のためにやっていた事だから』
「そう。で?この状況は一体?」
私は自分の呼吸を整えるように、端から見れば余裕があるように歩いて灰被りの近くへと向かう。
限りなく広がっているように見えた草原は見る影もなく、今では灰となった草や土塊ばかりであり少し正直足場は悪い。
『一つ、君に頼みたい事があってね』
「頼み?」
『あぁ、頼みさ。本当に簡単な頼み。……僕と一騎打ちをしてほしいんだ』
「……何故?」
一騎打ち。
まるで先ほど行われていた第二試合の焼き増しのように。
『見ての通り、僕は切札を切った。これ以上の札はもうないし、これが通用しなければ僕は負ける。……というか、これで勝てなかったらレンにも勝ち目はないだろうさ。彼女、結局汎用使わないからごり押ししかできないし』
「……」
『それに、このまま押し切られて負けましたーってのもかっこ悪いだろう?今、この試合は中継されているんだ。言わばコロッセウムのように見世物として戦っているんだ。……なら、見せ場をここらでもう一つ。クライマックスの盛り上がりというのも必要だろう?』
ガビーロールの言っていることは分からない話ではない。
今、この状況は他のプレイヤーたちも見れるよう中継、あるいは実況なんかもされているはずだ。
声だけは届かないにしても、私を応援してくれている者らはきっといるだろう。
ガビーロール達を応援している者も、きっといるはずだ。
そんな彼らの為に。
少しばかりの見せ場を再度作ろうと、目の前の頭を拗らせたゴーレム使いは言っているのだ。
「……はぁ」
一つ、息を吐く。
正直言って、この誘いに乗るのは馬鹿のやることだろう。
クロエやグリムのように、自らの仲間が再起不能となり必然的に一騎打ちになったわけではなく。
ただ単純に、見せ場の為だけに自分達も一騎打ちをしようと誘われているのだから。
しかし。
「私は馬鹿だからね。良いぜ、やろうじゃあないか一騎打ち。そういうのは【童話】の物語によくある話さ」
こういう誘いに乗らないのは、私ではない。
そもそも、ここはVRMMOの世界。誰もが自らを主人公だと思い参加し変わらぬ現実を見る仮想の現実。
目立ちたいというのは、この中では真っ当すぎる欲だ。
勿論、私にもその欲が原動力となってサバトなど色々な出来事に首を突っ込んだりしているのだから。
『ありがとう』
「おいおい、礼を言われるようなことじゃあないだろう?目立ちたい。WOAに限らずVRMMOをやってる奴なら真っ当な理由だぜ?そうだろう?」
『……あぁ、そうだね』
「だから一騎打ちをする。しようじゃないか。ただ先に頼みたいのは……」
ガキン、と私の背後から音が鳴る。
姿の見えない刃を、私の近くにいた灰被りが氷の茨によって防いだ音だ。
「彼女をどうにか説得してくれないかな?」
「馬鹿ロール!なんでそんなこといってんの!?物量で押しつぶせば終わる話じゃん!!」
そう言いながら、虚空からぬるりと出てきたレンと私の間に灰被りが壁になるように入ってくる。
見た限り、彼女はかなり消耗しているが……防御に専念しているのだろう。
今もレンによって放たれている不可視の攻撃を、氷の茨を巧みに操り防ぎきっている。
『レン。普通に戦ってこうなってるんだ。なら勝つには特殊なルールを自分達で設けた方がいいだろう?』
「だからって一騎打ちって!しかも相性が悪いって言ってた赤ずきんとやるとか馬鹿じゃない?!それなら赤ずきんの相手は私でいいじゃん!!」
『……いや、ここまでやっといて何もやらずに見守るってのもかっこ悪いだろう?』
「ここまで来てかっこ悪いとかかっこいいとか関係ないでしょ!!というかこのゲームでそんな見せ場とか気にしてるのあんたかハロウくらいだからね!?」
……長くなりそうだ。コレ。