第三試合 8
すいません、リハビリなので短めに
■ガビーロール視点
ハッキリ言ってしまえば、既にこの試合は負けている。
今もなお燃え続けるゴーレムシェルターに対し、近づいてくる灰被り。
それに加え、帽子屋が消えていったということは赤ずきんもこちらへと向かって移動を始めているのだろう。
私一人であの二人を相手にするのはいささか相性が悪い。
レンがこちらへと来てくれるならまだ五分にはなるだろうが、それでも先に私が死んでしまうだろう。
そうなったら勝率は一割もなくなる。その確信が私にはあった。
いくらレンが数多くの固有魔術を所有していようと。
この状況を打破するには、あと一手足りない。
……だけど。ここで諦めるのはかっこ悪いなぁ!
そう、かっこ悪い。
大勢に観られている中、単純に押し負けたという事実が残るのは非常にかっこ悪い。
世間体を気にするわけではないが、それでも女の子たちに負けるというのは男として許せるものではない。
だからこそ。意地を張らせてもらう。
「出来ればこんな衆人環視の前で使いたい手ではなかったんだけど」
使うしかないだろう。
ここで単純に負けるのもかっこ悪いが、あとから奥の手を使ってなかったのだと宣言する方がもっとかっこ悪い。
「【生命の起源である地よ】、【そしてそれを扱いし祖よ】」
熱がシェルターの中まで届き始める。
それはつまり、外側のゴーレム達の修復が間に合わず。
そう遠くないうちに私の所まで火が回ってくるということだろう。
「【我は祖の名を受け継ぎし同胞】。【彼の力に魅了され、究めんと志した者】」
しかし、どうでもいい。
火がなんだ。現実ではないのだ。即死はしない。
ゲームなのだ。HPがある限り私はこの世界で生きていられるし、動くことができる。
「【然しこの身は頂に届くには弱く】、【魂は異形へと変わる】」
一息。
「【それ故に我は人の身を捨てる】。――【祖の叡智】起動」
私がこのWOAに来て、初めて手に入れた固有魔術【創物】。
効果は単純で、素材を別の物へと変えてくれる直接攻撃ができない固有魔術だ。
しかしその変換先は無限大。レベル制限や素材は必要なものの、私が想像できるものならば基本的になんでも創ることが出来た。
そしてこの固有魔術は、その『対価を引き換えに物を創り出す』という能力を派生魔術によって純粋強化していった。
ゴーレムなどの使い魔系統を作った場合のステータスUP。
変換・創造速度の増加、など。無駄な他の能力を生やすことなく、純粋に元からある能力に追加する形で派生魔術を獲得していった。
そんな【創物】の最終派生魔術。
それが【祖の叡智】だった。
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灰被りは見た。
恐らく、一番近くで。
それが起き上がるのを見た。
赤ずきんは見た。
向かっていた先の場で、それが突然産まれたから。
自らが召喚出来る使い魔たちの中にも似たようなモノがいるが、それは違うものだと理解した。
レンは見た。
この戦場の中、誰よりも遠くから。
それは、赤く。それでいてみるだけで安心感を得られるようなものだった。
そして、ウィンドウの中継でプレイヤーたちは見る。
有名なゴーレム使いである、ガビーロールの最高傑作を。
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■灰被り視点
それは、赤かった。
赤く、私の使っている【誕燐回帰】よりも熱い。
ゆっくりと起き上がるそれは、自らの身を炎で燃やしながらこちらへと顔のような部分を向ける。
巨大なそれは、かろうじて人型と分かったために私は察することが出来た。
――恐らくはこれが奥の手。ガビーロールさんの最終手段。
『……【祖の叡智】起動確認』
「その声……もしかして」
『んん……やぁ!そうだよ私だ!ガビーロールさ!!そういえば皆に見せるのはこれが初だったかな?――これが私の切札さ』
そう言って肩をすくめる動作をする。
炎の巨人にしか見えないそれは、自らをガビーロールだと名乗った。
よくよく見てみると、中には土のような芯が入っていることに気付いた。
……ゴーレム?いや、それにしては動きがスムーズすぎる。
『おっと、親切心ながら言っておけば……この姿になった以上、君の【誕燐回帰】って魔術は効かないと思うよ。少なくとも相性は最悪だと思うから、発動解除できるならした方がいいだろう』
「……そうですか。情報、感謝します」
見たままで判断するならば、炎を材料として創られたゴーレムだろう。
それも普通の炎ではなく、私の使った【誕燐回帰】による炎。
相手の言うことを信じるわけではないが、同種の炎をぶつけても意味のないことくらい分かっている。
それ故一度、【誕燐回帰】の発動を取り消し。
足を踏み鳴らすことで一度溶けてしまった氷の防壁を再度作り出す。
「それが貴方の切り札ですね?」
『ここは戦場、敵に対して手の内を明かすとでも?』
「それもそうですね、失礼。……攻撃してこないので?」
『……あー、いやね。うん。赤ずきんを待とうと思って』
……何故?
理解が出来ない。素直にそう思った。